コスト分析に偏ったバイヤーの限界(牧野直哉)

コスト分析に偏ったバイヤーの限界(牧野直哉)

バイヤーにとってコスト分析はとても重要ですね。私も、バイヤーになってから、様々なコスト分析なるものをおこなってきました。コスト分析に関する様々な文献を読み、資料の収集は現在も継続しておこなっています。そして、ある程度、どんな購入物でも分析をおこなった上で、想定コストを算出できるようになっています。しかし最近あることに気づきました。バイヤーは購入する金額はコストではありませんね。サプライヤーと合意した売価で購入しています。コストと売価について、こんなエピソードがありました。

私の職場では、定期的にバイヤーがコスト分析をおこなって、分析結果を全員で共有しています。数十人のコスト分析を読むことは骨の折れる作業ですが、でもコスト分析に関する様々なノウハウが蓄積できる貴重な機会です。しかし、多くのバイヤーに共通する報告のスタイルが存在します。

担当購入製品のコスト構成要素を定義し、それぞれの要素の市況や、他の根拠による基準と使用量で構成要素毎の費用を算出。最終的には、構成要素の積み上げでコストを算出します。最後に、算出した額よりも実際の購入金額の方が低いことで、コストの分析結果でなく、みずからの購入金額を正当化するものです。多くのバイヤーがこのスタイルで、レポートをまとめていました。

「そんなものか」と、私も最初は納得していました。というのも、数十人の集めたコスト分析のベースになる指標など、一人では集められないほどの多種多様なものです。数年間のこういったデータの蓄積は、私にとっても大きな財産です。しかし、コスト分析結果の数値が、実際の購入金額よりも高いことは、そもそもコスト分析になんらかの問題があるのではないか、と考えるに至っています。

くり返しますが、コストは分析を経て積算することが可能です。厳密にいえば、サプライヤー側でどのようなコスト管理をおこなっているかによって、実際のコストは変わってきます。製造業では、生産現場の管理によってもコストは差が生まれます。実際に発生するコストにも、その姿を理解しようとする人間の意志が入り込んできます。人間の意志といっても、実際の姿を大きく変動させるほどに、コストを変えることはできません。

そして売価です。これは、競合や顧客ニーズにもとづいた市場価格も存在しますが、最終的には売り手の意志が反映されます。もちろん価格決定にはこの本( http://amzn.to/LrCaTY )に語られているようなセオリーも存在します。私が考える、バイヤーが持つべき最もシンプルな売価への意識と視点は、

1. サプライヤーにも儲けてもらわないといけない
2. 私から、どの程度の儲けているのか

との2点です。

最初の「サプライヤーにも儲けてもらう」は、実際に私は多くのサプライヤーの担当者に、言葉通り話をしています。「ボロ儲けは困りますけど、適正な利益は必要です」と、付け加えますけどね。この発言は、サプライヤーの担当者にとってちょっと印象的みたいです。「そんなこと、初めて言われました」と、何度かそう言われました。私にとっては、珍しくも何ともない、あたりまえの考えなのですけどね。

実際、そんなことは絶対にあり得ないとは思いますが、仮にコストレベルでの購買を継続するとします。サプライヤーの売り上げに占める割合にもよりますが、正しいコストレベルであれば、継続できませんよね。いつの日か、必ず破綻します。しかし、多くのサプライヤーは、継続的にビジネスをおこなっています。ということは、割合は千差万別でしょうが、必ず儲けているのです。サプライヤーが必ずおこなっていることに、バイヤーとして無関心で良いはずがありませんね

私のバイヤー生活の中で数回、驚くくらいに低コストのサプライヤーが突然現れました。しかし、そのすべてのサプライヤーは最終的に倒産してしまいます。理由は、安さの理由が「儲けていない」からでした。以降、私は「このサプライヤーは、どこで儲けているのか」について、意識を持つようになりました。安価な価格提示を得た場合は、より一層強く意識して、儲けのポイントを探すようにしています。たとえば、こんな事がありました。

あるサプライヤーの担当になりました。私は、新しい製品やサプライヤーの担当になると、できる限り過去にさかのぼって、どんな製品を、どれくらいの価格で、どの程度の量買っているのか。そして、現在買っているすべてのアイテムの価格の傾向を、コストテーブルという形で作成しています。すると、どのサプライヤーや製品のケースでも、妙に高かったり、安かったりするアイテムに出会います。その理由を紐解いてゆきます。すると、過去のサプライヤーとバイヤー企業とが歩んできた苦難の道が明らかになります。多くの場合は、妙に高い・安いアイテムの合算で利益を得ているのです。そして、そんな苦難の道を経ることなく決定された価格のアイテムもあります。それらの価格・スペックを分析してゆくと、だいたいの儲けのレベルが掌握できます。試しに私の分析結果を、何度かサプライヤーに直に聞いてみたこともあります。どのサプライヤーも、正しいとも間違っているとも言いません。しかし一様に驚きの表情です。そこまで言及するバイヤーが少ないためです。

このような考え方には異論をもたれる方もいるでしょう。売価には市場価格が存在する。売価の決定要因は市場価格であって、利益を考えて売価を決定するサプライヤーなどいない、と。私は、よほどコモディティ化の進んだアイテムでない限り、産業購買の世界に、売価の決定根拠になる市場価格など存在しないと考えています。我々が接している市場とは、対象のサプライヤーとの間にだけ存在する非常に小さなものです。サプライヤーは、顧客毎に市場を持っているといっても良いくらいです。個別の市場であるが故に、まったく同じコスト構造を持つアイテムであっても、利益率は千差万別であるはずなのです。

私はこう考えます。普通のバイヤーは、安価な見積提示に喜んで、事によってはサプライヤーにお礼を言う。これから生き残ってゆくバイヤーは、安価な見積提示に対して、どこで儲けているのかと利益源を探す。もしかすると、安価と思わせた根拠に、おおきなサプライヤーが儲けている源があるかもしれない。そう考えるとき、コスト分析でなく売価を、サプライヤーがどこで儲けているのかがほんとうに重要だと考えるのです。

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