サプライヤからの値上げ申請に悩まない方法

サプライヤからの値上げ申請に悩まない方法

実はこの話、ずっと私の中だけに封印してきました。バイヤーとして忘れた
い、でも忘れてはならない。いや、そんな格好良い言葉で表現してはダメで
すね。私のもっとも大きな、自分の未熟さを感じる失敗談です。

200×年、新興国経済の勃興、あるいはより高い利回りを求めた投資マネ
ーにより、原材料価格が高騰していました。私が担当していた製品は、コス
トの約30%が銅でした。ロンドン金属取引所(LME) のホームページをみると、
市況はかつての何倍にもなっていました。私は、コスト分析と市況データを
用いて、サプライヤーからの値上げ要求額の妥当性を確認し、社内に説明す
る日々を送っていました。

当時の私の説明ロジックは次の通りでした。

1.現在の購入価格は、銅の市場価格が××××年××月××日時点の○○
○○円
2.現在の市場価格は△△△△円
3.購入している製品の銅の使用量は□□□kg
4.したがって、値上げ想定額は
△△△△円-(マイナス)○○○○円×(かける)□□□kg=▽▽▽▽円
5.しかし今回の値上げ要求額は、▽▽▽▽円を下回っているので、妥当性
がある

当時、マスコミでもさまざまな市場価格の高騰が報道されており、上記のス
トーリーで説明した内容に異を唱えられるケースはほとんどありませんでし
た。社内のコンセンサスを得られれば、値上げ後の価格で見積書を入手し注
文書を発行します。同時に私は価格明細の提示をサプライヤーに求めていま
した。あるサプライヤーの担当者から、PDFで見積書が、エクセルファイ
ルで明細書がメールで送付されました。PDFの内容と、エクセルファイル
の内容の整合性を確認していると、価格の掲載されたシートには「非表示」
になっている列がありました。非表示の列は十数列あって、サプライヤー側
の原価データが残っていました。その数字を見て、私は愕然としました。

材料費と思われる列には、私が値上げ根拠の説明で用いた数値よりも、はる
かに安価な数値が記載されていました。その表を細かく見てゆくと、私が合
意した値上げ額によって、サプライヤーの利益率は増加しているとも読めま
した。社内を説得するために値上げ幅の大きなデータをあえて採用していま
した。しかし、手に入れたデータによれば、値上げ額は私の説明した額の半
分程度でも、従来と同じ利益率は確保できる計算結果を示しています。私は、
サプライヤーとも十分に交渉し、社内の説明にも十二分に労力を費やしてお
こなったと自負していました。しかし、実際は私の完敗だったのです。サプ
ライヤーの戦略に乗せられていたのです。敗北感の中、合意した金額、すな
わちサプライヤー側の利益を十分確保した発注金額を記載した注文書を作成
したのです。

そんな敗北感を味わった年でも、私の所属する調達購買部門では、購入コス
ト削減額を報告していました。同時に値上げ額も集計しており、コスト削減
額と値上げ額がほぼ同額でした。社内的には、いろいろ策を講じ、結果的に
値上げのインパクトを前年比で吸収したと評価されていました。しかし、あ
のエクセルファイルを見た私は、そんな言葉で安堵(あんど) できません。
その年の値上げ対応の流れをまとめると、次の様な流れでした。

(1)各サプライヤーから値上げ要求がおこなわれる
(2)値上げ抑制よりも、必要数の確保が優先される
(3)コスト分析をおこないつつ、交渉の進展によって、最初に合意したサ
プライヤーとの値上げ率が基準となる
(4)その基準より下の割合であれば社内的にも深い検討無しに合意して良
いとの雰囲気が蔓延(まんえん)

そして、当時の私の稟議書には、こんな言葉が書かれていました。

「競合メーカーA社は、既に○%値上げで合意しており、これ以上の交渉継
続は、円滑な納入にも影響を及ぼす可能性が高く、、、」
「これまで粘り強く値上げ額抑制に取り組んできましたが、コスト査定結果
とほぼ同じ数値までは到達しており、、、」
「LMEの価格推移と、製品当たりの使用量から判断して、この値上げ幅で
あれば、値上げ相当分をサプライヤーと折半していると判断できます。した
がって、、、」

今、読み返しても焦燥感に駆られます。あのエクセルファイルを見た後では、
すべて詭弁です。私は値上げ対応を根底から見直しました。すると、バイヤ
ーとしておこなってきた、当時の私の職場では一般的な対応が、実はサプラ
イヤーの値上げ要求に有利に働いている事実を発見しました。その1つが値
上げ要求を拒否する姿勢です。

値上げ要求とは、受け入れるか否かとのポイントと同じように、どの程度の
値上げで合意するかも同じように重要です。特に、コスト要素である原材料
費が誰の目で見ても高騰している場合、拒否する姿勢を崩さないと、サプラ
イヤーはどうするでしょう。もし、他の顧客で値上げ要求を受けてくれれば、
そちらへの納入を優先します。優先するだけでなく、供給能力が窮迫してい
れば、断固とした値上げ拒否姿勢の継続は、納入が止められる可能性をはら
んでいます。もちろん、代替サプライヤーが存在して、確実に供給を受けら
れる保証があれば別です。しかし、原材料の高騰と、供給能力の窮迫が同時
進行している中では、簡単に他のサプライヤーからも購入できません。拒否
の姿勢を続けた結果、サプライヤーが供給停止を考え出した瞬間、サプライ
ヤーとバイヤーの間で、価格交渉が納入継続交渉に変貌します。その場合、
価格決定の主導権を握れるかどうか。多くの場合握れずに納入を優先するの
です。

一方で、安易に値上げを受け入れる姿勢にも問題があります。値上げの受入
とは、やむを得ない最低レベル(率)であると同時に、値上げによって価格
条件以外の部分でサプライヤーに善処を迫るといった取り組みも重要です。
私は、値上げ対応とは、上手な拒否姿勢と、値上げ額合意へのプロセスメイ
キングを、バイヤー主導でおこなうべきと考えています。

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