バイヤーという戦場にかける恥(1)

バイヤーという戦場にかける恥(1)

「ういぇーーぇぇ!!」

営業マンは絶叫した。あるカラオケバーでのことだ。

営業マンは40歳を過ぎようかとする年齢。目の前のバイヤーに合わせようとしたのか、若作りか、あるいは趣味なのか。その当時の流行歌を歌いだした。

バイヤーは酔いにも任せて、その歌の意外性に驚き、声をあげた。「そんな若い歌よくご存知ですね」と。そして、一緒に歌い盛り上げた。

「ええ、好きなんですよ、この歌」と営業マンは言った。明らかに年齢に似合わず、しかも冷静に考えれば全く音程も合っていなかったのだが。それは問題ではなかった。

その場を楽しむこと。しかも、営業マン先導で場が作られること。

それはあるとき「接待」と呼ばれた。

しかし、そのような楽しげな場に居ながらそのバイヤーは思わずにおれなかった。

「ところで、これって仕事なんだっけ?」と。

そういうことを考えている最中にも営業マンはラルクアンシェルを歌い続けるのだった。

「真白な時は~ 風にさらわれて~」

・・・・

そのバイヤーは私だった。

そのとき私は中国の上海に居た。ある製品の品質保証の監査のときのこと。

「では、このあとはちょっと食事にでもいきましょうか」と、品質管理担当者と私はまずは大衆的な飲食店に連れていかれたのだった。

そして、次は二次会、という「自然な流れ」でカラオケに行くことになった。中国でカラオケといえば、こちらでいうキャバクラである。

ほぼ断言してよいが、中国にサプライヤーと出張に行く「真面目な出張」はこのようなカラオケを含んでいる。まぁ、そういうわけで私もその慣例に従い、その「真面目」なカラオケに行くことになった。

隣にいるのは日本語も十分に分からない若い中国人。それで日本で流行の歌手の歌を歌っても、その中国の女性に分かるはずもない。

もちろん、分からないままであっても客人を楽しませるのが商売といってもいいだろうが、いずれにせよ完全な日本人の空間において我々の「食事」は進んでいった。

そのカラオケの数曲が終わったとき、営業マンは急に真面目な顔をしたのだった。

「ところで、今回のアノ製品、どうでしょうかねぇ」

そう真剣な質問をしたあとに、その営業マンはカバンの中からカタログを取り出して、酔いも半ばのとき営業活動を開始するのであった。

「こういうことを考えておりまして、この製品の位置づけはですね・・・」。

もちろん、そのとき客人であるという立場は分かるとして、周囲の中国人女性の存在など考えている配慮も、気持ちもなかった。

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