バイヤーとしての品質にどうかかわるべきか 1(牧野直哉)

バイヤーとしての品質にどうかかわるべきか 1(牧野直哉)

以前日本でも大きな話題となった中国製冷凍餃子の毒物混入問題を取り上げたことがあります。ちょうど出張で上海に滞在しているときでした。毒物を混入させた犯人が逮捕されたとの報道をうけての記事です。たまたま中国にいたことで、私にとって強く印象に残っています。

「冷凍餃子問題」を取り上げた際、このビジネスに携わっていた日本企業側のバイヤーが少なくとも4人いて、皆が毒物の混入を見逃したことをお伝えしました。製造会社以外はすべて日本企業です。単純に流通ルートを辿れば、日本企業の方がおおきく関係しているわけです。にもかかわらず、中国の製造会社が日本で悪者として報道されたことに大きな違和感を覚えました。バイヤーは何をしていたのだろう、起こった事件の責任の一端は日本側、それっもバイヤーにあるのではないかという疑問と共に、です。

事件発生後、日本側の流通業者は再発防止に真摯に取り組んでいます。ホームページで告知された改善策に大きな「苦悩」が示されています。その真剣は、問題の抜本的な解決策の難しさを語っています。そう、それほどに品質を確保するのは難しい。バイヤーにとっては茨の道に他なりませんね。

バイヤーであれば頻繁に「QCD××」という言葉を口にするでしょう。××とは、最近では企業によって様々な言い方をします。ここでは最初に登場する「Q:品質」について、バイヤー視点で考えてみます。サプライヤーに対する要求事項として一番に口にする品質(Q)、果たしてバイヤーはどのように携わるべきなのか。

いずこのバイヤーにとっても、もっとも興味のあるポイントは「C:コスト」でしょう。企業の中でもコストダウンといえば調達・購買部門に話が持ち込まれます。では、闇雲にコストの安さだけを追求して良いのかといえば違いますね。適正な品質も当然ながら求める必要があります。バイヤーであれば、コストへのこだわりつつ、そしてそれぞれの要求事項にいかにバランスを取らせるかが必要だと考えています。では、具体的にコスト以外にどのように携わるべきなのか。

皆さんがお勤めの企業でも品質保証部門があるでしょう。品質保証部門のもっぱらの興味は自社の製品にむけられているはずです。自社製品の品質確保の一環として購入するモノやサービスへの品質の取り組みがあるはずです。そのような中でサプライヤーから提供されるリソースの品質保証にバイヤーとしてどのように取り組むべきなのか。まず「品質は品質保証部門の仕事だから」といった割り切りを持たないことです。企業によってサプライヤーマネジメントにおける品質責任の担い手が品質保証部門でないケースもあるでしょう。私の勤務先では、調達・購買部門にサプライヤークオリティエンジニアというポジションが存在します。そして、いわゆる品質保証部門に内包されるケースもある。ここで重要なのは、品質保証にバイヤーとして関わりを持つかどうかとの点です。社内牽制の観点から、品質の直接的な良し悪しの判断をバイヤーは行なうことはできません。これは発注先選定という権限をバイヤーの元へ保ち、公平性の担保の上でも重要な点です。しかし「だから関わらない」とはならないのです。品質問題は、まさに買う行為の根幹に関係します。具体的にどのように関わって行くかはこれから述べてゆきます。ここでは、バイヤーとして品質に具体的に携わることがもたらすメリットについてお話しします。

仮に、バイヤーが品質問題に全く興味を示さない場合を想定してみます。売り手である営業マンは、そんなバイヤーの態度をどう感じるか。きっと営業マンはやりやすいでしょうね。バイヤーの中には「うまくやってよ」なんて言葉と共に、その鷹揚さがバイヤーには重要などと勘違いする人もいます。そのような態度は営業マンにとって楽ですよね。品質問題にバイヤーが関心を持たないことは、サプライヤーの選定基準から品質が抜け落ちているも同じです。これは間接的に、品質保証部門の仕事を蔑ろにしていることに他なりません。

品質問題を考えるとき、私は「ハインリッヒの法則」を思い起こします。1:29:300という数値でも表されることで御存知の方も多いでしょう。これは労働災害の事例を統計的に分析した結果、導き出されたものです。1件の重い傷害事故には、29件の軽傷事故が、そして300件のヒヤリとした瞬間があったというものです。品質保証に関しても、1件の重大な不良には、29件の軽微な不良が、そして300件のちょっとした問題があるのではないか、と考えるわけです。不良品の流出という事態を招くケースには、その前の段階で、ちょっとした内容まで含めると300件以上の問題があった。一般的な調達・購買のプロセスを思い起こしてみると、300件以上の軽微、もしくはちょっとした問題のいずれかには、必ずバイヤーも遭遇していると考えるわけです。当然、軽微でちょっとした内容ですから、気づくかどうかわかりません。しかし、全く興味を示さなければ、気づく可能性もなくなります。最初に提示した冷凍餃子の例でいえば、問題がおおきく顕在化する前に、臭いによって有機溶剤の存在までわかっていたのです。バイヤーまでその事実を掴んでいたかどうかはわかりません。事後にこのような物言いを行なうのは楽ですね。なので、実際に携わっていたバイヤーを責める気持ちはありません。先の数値の1件や、29件の発生防止への取り組みの責任は品質保証部門にあるかもしれません。でも300件のうち、いくらかを目にする可能性があるバイヤーが、注意を持つか持たないか、そして気づいて点に関して、品質保証部門と情報を共有化し、アクションの要否を品質保証部門と協同して考えることは、適正な品質を確保するために必要な事なのです。

そしてもう一つ別の観点。品質保証にまつわるスキルを得ることが、バイヤーとしての価値を高めるために有益ではないか、との仮定によるものです。このメールマガジンをご購読頂いているみなさんは、非常に高い次元で調達・購買に携わっておられます。そして注文書を発行するためだけに存在するバイヤーであれば、これからLCCとよばれる国のバイヤー達に仕事を奪われてしまうことも容易にご理解いただけるでしょう。低賃金というメリットを海外調達という形で得ていたバイヤーが、まさに低賃金によってその地位を脅かされる構図です。私は、このような流れの中で生き残ってゆくために、おおきく2つの方策があると考えています。一つは、多くのバイヤーを統括・管理するマネジメントによって生き残る方法。もう一つは、QCD××といわれるそれぞれの内容に関するスキルアップによって、他のバイヤーとの差別化をはかる方法です。今回の内容は、後者のものです。次号より、具体的な品質へのバイヤーとしての関わり方についてお話を進めてゆきたいと思います。

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