バイヤーになって感じた最初の壁 1(牧野直哉)

バイヤーになって感じた最初の壁 1(牧野直哉)

私がバイヤーになってかれこれ14年が経ちます。先日元同僚との語らいの中で、自分の前に立ちはだかった、ある壁を思い出しました。

「どうやってコストを下げるのか」

私は営業部門から調達部門へ異動しました。仕事柄、価格を下られることには慣れていました(笑)。しかし、自らが基点となってサプライヤーにコストを下げてもらうにはどうしたらよいのか。具体的な方法論も知りませんし、周囲も誰も教えてくれませんでした。 営業時代に理不尽なバイヤーの言動に閉口していた私は、心の中でこれまで出会ったバイヤーのようにはなるまいとだけ、堅く心に決めていました。一方どうやってバイヤーとしてのアウトプットを出すのか。当時の私には答えなどあるはずもありません。ただ新入社員ではなかったので、自分で答えを見い出さなければならない、そう強く想っていました。

それまでの仕事と立場がまったく正反対になったわけです。で、あれば、自分がこれまで一緒に仕事をしてきた方の発言や行動に何かヒントがあるのではないか。そして、営業時代のいろいろな、それも忌々しい(笑) 御客様の発言を思い出してみました。

「キャンセルするけど、いいの?」

これ、出荷の前日に言われた言葉です。出荷を遅らせて欲しいとの話に、どの程度の期間ですか?との質問に対していろいろ言い合った挙句の発言でした。

「金輪際、発注しないけど」

契約書を交わした後に、もう一回価格交渉を持ち掛けられ、断った時の言葉です。今でも「そうしていただいて結構です」と言えなかった自分が情けなく思えます。
「君は、会社を代表して、そういった発言をしているのか?」

詳しい仕様が決まっていない段階ではこれ以上価格交渉はできない、との私の発言に対しての言葉です。

実際にバイヤーの方から賜った言葉を思い返してみました(笑)。正直、かなり至らない営業マンだったなぁと、今なら思い知らされます。資材・調達部門に異動してから、営業時代にお世話になった方のお叱りを思い出し、なるほど~とその真意が理解できる内容も 確かにありました。しかし多くの場合、バイヤーの言動は理不尽でした。そして、そもそも資材とか調達といったセクションの方に微塵ほども尊敬の念を持っていない自分に気づいたのです。 そんな状況でしたから、日々の仕事でどうするかと同時に、自分がどんなバイヤーになるべきかも、具体像を描けずにいました。

思い悩む私は、当時の同僚に「コストってどうやって下げるの?」と聞いてみたりもしました。同期入社で、私よりも2年早くバイヤーとなっていた同僚からはこう言われました。

「コスト下げてって、お願いするんだよ。お願いネゴ」

お願いするだけで、コストって下がるものなの?!なんでお願いするとコストが下がるの?私の質問に、同僚からの明確な答えはありませんでした。とにかくお願いするんだと。2年早くバイヤーとなっていた同僚は、 それでも確固たる成果を残していました。同僚の残す数字に、正直私は焦っていました。しかし、営業時代にお願いなどされたことがない、恫喝しか覚えのない私は、どうしても「お願いネゴ」に納得してはいませんでした。

私は上司が担当していたサプライヤーを引き継いでいました。引継ぎ目的でその上司と一緒に打ち合わせをする機会も多くありました。とにかく、どうやってコストを下げたらよいか、まったくわかっていない のです。その頃は、打ち合わせが恐ろしくてたまらりませんでした。サプライヤーの営業マンの言っていることがわからない。今だったら「教えてください」といえるんですけどね。当時は、きっと肩肘張って、突っ張っていたんでしょう。打ち合わせの主導権も、私の上司 、若しくはサプライヤーの営業マンが握っています。いっぱしの営業マンと自負していた私には、日常業務であるはずの打ち合わせの場が苦痛で、屈辱的ですらありました。なんとか活路を見出したい私は、当時の上司の打ち合わせでの発言に注目しました。

「俺は知らねえよ」

「この見積は気に食わない」

「そんなこと、うちには関係ない」

「こんな金額じゃ話にならない」

「それが、客に向かっていうこと?」

今ではまったく使わない言葉だらけです。加えて、私からみて上司は明らかに横柄でした。そして、どうやったらコストって下げられるのか、は引き続き答えがありません。私はそんな中で、横柄に振舞うことで、相手が威圧され、打ち合わせの場の主導権を握ることができるのではないか、と考え始めます。打ち合わせの主導権を握ることで、コストを下げてゆく道筋をつけられるはずです。主導権を得るために横柄に振舞う・・・・・・と、今思い返しても悲しく 、残念な結論へとたどり着きます。悲しい・・・・・・とは、けっして横柄さは何も生まないことを今、知っているから、より一層そのように感じます。他に手立てのない私はそうするしかなかったのです。

今でも、その打ち合わせだけは忘れることができません。メンバーも場所もなにもかもです。オフィスがリニューアルされ、その場所は跡形もなくなっても、 その記憶だけは鮮明です。横柄に振舞うことを決めた私は、あるサプライヤーとの打ち合わせに臨みます。相手は5名対私1人です。前任者である私の上司は同席していません。ある購入品に関する価格と納期の調整でした。そして、やっぱり思い通りの結果を得ることができません。私は焦 り、そして迷っていました。横柄になるかどうか。そして、勝手に自分で自分を追い込んでいた私は、打ち合わせの席上でこんな発言をしてしまったのです。

「結局できないの?なんかもっとさぁ~気の利いた回答持ってこれないの?ちゃんと検討したの?なんか気に食わないんだよね~調整した経緯がまったく見えない、話にならないよ」

どれほど横柄だったかはわかりません。ただ、その言葉を言い放った後の凍りつく雰囲気は忘れることができません。なに言ってんだこいつ?!と思いつつも、お客さんだから・・・・・・ということで自らの本心を口にしないサプライヤーの皆さん。私に次の言葉を出す勇気は残っていませんでした。どんな風に打ち合わせを終えたか、まったく記憶にありません。その少し前の記憶は鮮明であるにもかかわらずです。

以来、余計にどのようにサプライヤーと相対したら良いのか、で深く悩みました。異動したばかりで、さほどノルマは厳しくなかった。まぁ期待されていなかったのにも助けられました。私の中には、悔しさだけが残っていました。

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