事件は会議室で起こっているんじゃない。商談室で起こっているんだ①

事件は会議室で起こっているんじゃない。商談室で起こっているんだ①

「コスト、コストってうるせえんだよっ!」。
調達・購買部員の一人として、設計者たちと会議していたときのこと。
ある人から、決まってこう言われたことを思い出します。
ビジネスマンとして成功したければ、まずは声を大きく出すことではないでしょうか。
いきなり皮肉を言ってしまったかもしれません。
ただ、当時は本気でそう思っていました。

昔のことです。
私が、新規案件の相見積りをとりました。
そして、これまで温めていた新規サプライヤーが、かなり「安い」見積りを出してくれたのです。
「これは、いける」と私は思いました。そして、設計者たちとの打ち合わせに臨みました。
その案件のサプライヤーをどこにするかという打ち合わせです。

既存のサプライヤーも良いかもしれない。
でも、ここで一社独占の状況を打ち破るには「もう一手」を繰り出す必要があります。
すなわち、新規サプライヤーの参入。
それは、既存のサプライヤーにとっても、刺激となるものです。
しかも、既存サプライヤーより、その新規のサプライヤーは3割も安価でした。

もちろん、設計の担当者には根回しをしておきました。
しかし、そんなにうまくはいきません。「あの人」がいるからです。

「あの人」とは、設計部門の中にいて、コスト関係を取りまとめている人でした。
しかも、口うるさい人。
自分の思い通りにいかなければ、周囲の意見を修正させてまで、自分の意見を通す人。

私が、新規サプライヤーの参入の提案をしました。
すると、予想通り、「あの人」が口を開くのです。
「安いのは、分かったよ。でも、品質はどうなってんだよ」
私は回答しました。「それも、品質部門と確認済です」と。
すると、これまた予想通り、「あの人」は、さらにつっこみます。

「でも、そこの開発がうまくいかなかったら、誰が責任を取るんだよ」
私は答えます。「それは、設計部門でしょう。
設計の責任は、そちらにあるのですから。
ただ、繰り返しですが、3割も価格が安い」。
そこから、侃々諤々の議論が始まりました。
「あの人」はいつも、こう言って議論を打ち切りました。
「コスト、コストってうるせえんだよ! 金だけじゃねえだろう!」
私は、ため息をつき、既存サプライヤーに発注を決定する
会議をただ見ているしかできませんでした。

日本経済が凋落してからというもの、コスト意識が求められる時代がやってきた、
と人々は言います。
原価を抑えねば、利益を創出できない、と人々は言います。
そして、各社は少しでも原価を抑えるために、各社は努力を重ねている、と人々は言います。
でも、それは本当でしょうか?
いまでも、現場を見れば、「口うるさい人」たちが、品質や開発という聖域を盾に、
保守的になっているのが現実ではないでしょうか。
安いサプライヤーがうようよいることくらい、バイヤーならば、誰だって知っています。

「安いサプライヤーを探している」とバイヤーは言います。
でも、それはウソです。バイヤーならば、安くする方法や安いサプライヤなんて、
いくらでも知っています。問題は、それじゃないと思うのです。

本当の問題は、「安いサプライヤーを使えないこと」です。
誰か、否定できるでしょうか。
私はそのとき、熱意を持って、前述の「口うるさい人」を説き伏せて、
安価なサプライヤーに発注を決定した--、と言えたらどんなにカッコいいでしょう。
でも、現実には、それはできませんでした。

早い話が、私は、その「口うるさい人」に負けたのです。
これは敗北宣言をするしかありません。
私が言いたいことは、その「口うるさい人」のグチでしょうか。
それとも、「安いサプライヤーなんて、バイヤーはすでに知っている」ということでしょうか。

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