失言は計画的に(1)

失言は計画的に(1)

「じゃっ。この仕事いらないです」

営業マンは当然かのように言い放った。

バイヤーとの交渉のときだ。

そのときバイヤーと営業マンは価格交渉を実施しているときだった。品目は通信用の半導体チップだった。

どうしても、価格を下げねばならないバイヤー。

だからなんとしても安い価格を提示させたい。

だが、営業マンは安くしようとしない。当然だ。他のどのメーカーも同等製品を作れないことを知っているからだ。

交渉は平行線を辿った。

「そこをなんとか」というバイヤー。
「いや、この価格でなければ受けることができません」という営業マン。
「今後の取引もあるでしょう」というバイヤー。
「いや、それはそうですが、今回はこの価格なんです」と譲らない営業マン。

どうしようもない。そう思ったバイヤーはついに、言ってしまったのだ。

「でも、これじゃぁ、もう発注できないですよ」

それに対して、営業マンはすぐさま、こう言った。

「あっそうですか。分かりました。はい、じゃぁこの仕事いらないです」

・・・・

そのバイヤーは私だった。

毎期毎期の原価低減のお願いのときだった。

これと似た光景がどれほど日本中で繰り広げられているだろうか。

たったこれだけのエピソードであるが、私はいくつもの問題点に気づかずにはおられない。

一つ目。「このメーカーしか作れない」という状況のとき、果たしてバイヤー主導の価格交渉などあるのだろうか、ということ。

二つ目。購買組織はそもそも前値ベースでしか査定ができないのではないか、ということ。

三つ目。バイヤーに実は発注先決定権限などないのではないか、ということ。

代表的なものはこれらである。

おそらく、この根底に流れているものは、「自由競争による価格低減」という思想が実は虚構ではないか、ということである。

そして、その虚構をまず認めることからしか購買革命はスタートできないとも思う。

「王様は裸だ」といつまでも叫び続けるガキの精神こそが求められているのではないか。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

mautic is open source marketing automation