志とバイヤーと(1)

志とバイヤーと(1)

「そんなのこっちに言われても困りますよ!」

その若手バイヤーは先輩バイヤーがそう言っている場面にショックを受けた。

若手バイヤーは、えらく先輩バイヤーが怒っているのを見て、その内容を聞いてみたくなった。

「お怒りでしたけど、何かあったんですか?」そう聞いたところ、先輩バイヤーの答えは次のようなものだった。

「ああ、担当のサプライヤーが、『新製品を開発したので、御社が買っている部品よりも安くできますよ』って言うんだけど、それは俺の担当部品じゃないんだよ。シーケンサーなんで、隣の課に言ってくれ、と。全く何でもかんでも俺に言ってくるなと言いたいよ」

こう言ったのだった。

その若手は、「そりゃ、あなたが窓口だから提案を持ちかけてくれたんでしょ」と言いたいところだったが、セクショナリズムが当然と思っている先輩には言うことができなかった。

しばらく経って、「ところで、以前のシーケンサーの提案はどうなったんですかね?」と聞いてみた。

すると、先輩バイヤーはこう言うのだった。

「あれなぁ。しつこく担当者を教えてくれっていうから、『おたくには関係ない』と言ったよ」と。

さも、当然かのように言うので、その若手バイヤーは自分の常識が間違っているのか不安にすら感じたのだった。

・・・・

そのバイヤーは私だった。

ここまでヒドい例が他の会社でもあるのかは知らない。

だけど、私はこれに近いことを何回も耳にした。

また、思わぬ売込みに対して、私自身が面倒に感じたこともないとは言わない。例えば、部品メーカーから「御社のビル建て替えに際して、UPSを売り込みたい」とかだ。

正直言って、企業の最前線のバイヤーは、ある一定の製品に使用するある一定の部品しか購入していないから、自分のテリトリー以外の提案に対してどうしてよいか分からないのだ。

だからついバイヤーは「そんなことこっちに言ってくるな」と正直に発してしまう。

しかし、考えてみるに日ごろ「トータルコストを下げるためにVA提案をしてこい」とサプライヤーに言っているわりには、サプライヤーがVA提案をしてきても受け入れる体制にないのではないか。

私が言いたいのは、上記の例のようなテリトリー外のことだけではない。

バイヤーのテリトリー内のことであっても、サプライヤーからのせっかくのVA提案を、「設計者と打ち合わせるのが面倒だ」とか「どうせそういうのは慣例上無理だ」とか言って破棄してきた例をいくらでも見たことがある。

というか、バイヤーがサプライヤーのVA提案を自ら受け入れ、積極的に仕様を変更してまで推進していった例などほとんど知らない。

こういう状況でサプライヤーには「VA提案が足りない」と言っているのだから、まさに分裂病の域だ。

まさに、今必要なのは、VA案をVA案としてすぐに考慮する「すぐやる課」ではないか。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

mautic is open source marketing automation