書評『金になる人脈』(坂口孝則)

書評『金になる人脈』(坂口孝則)

少し前に、『金になる人脈』という本の書評を頼まれた。この本は、幻冬舎から出ていて、販促のために私に書評をお願いしたいとのことであった。このメールマガジンの読者でも、ブログをなさっている方もいると思う。

考えるに書評とは、
1.その本を買いたいと思わせるものでなければならず
2.著者本人も考えてもいなかったようなレベルの深い読解がなされており
3.書評自体が作品(「読み物」)として面白い
ことが求められる。

もし私のような人間でもよければ、この『金になる人脈』を通じて書評の書き方を伝授したい。タイトル通り、この『金になる人脈』は、サラリーマンがいかに自分の生活向上に寄与する人脈を構築するかについて書かれている。最初の原稿で、私は、このような書評にしておいた。

・人脈ってやっぱり必要だよね
・著者のノウハウって役に立つね
・私も頑張って人脈を築こう

ただし、自分で読んでみて絶望した。これでは単なる「提灯記事」に過ぎず、何の面白みもない。それに、自分で課しておいた上記三つの条件に当てはまっていない。そこで、私は次のように書き換え、原稿を送っておいた。

やや自慢だけれど、この原稿を送ったら、編集者が「この書評は凄い」と褒めてくれた。これ以降、なぜだか私にさまざまな書評の依頼が舞い込むことになった。このメールマガジンの読者が面白いと思ってくれるかはわからない。ただ、一つのサンプルとして提示しておきたい。

<書評 柴田英寿著『金になる人脈』 坂口孝則>
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「どうして友達は必要なの?」

幼い子供からそう問われたら、どう答えたら良いだろう。「一人では生きていけないからだよ」と答えたって、建前的すぎて今の子供たちには納得してもらえないだろう。私だったら、「もちろん不要だよ。なんで君は、友達なんてものを必要だと思うの?」と逆に問う。これは、友達なんていなくても、しっかりと自分の道を歩んでいける者同士でなければ、本当の友達にはなれない、という逆説を知ってほしいからだ。もしかすると、この逆説、人脈というものにもあてはまるのではないか。

もう4年も前の話だ。

会社勤めの私は、多忙な日々を送っていた。働けど上がらない給料――。焦燥感、不条理感、やり切れない思い。「人生の一発逆転ができないか」。なんとか現状を変えたくて、高額なセミナーに行ったり、若手ビジネスマンの勉強会を主催したり、毎日無数の本を読んだりして、新たな可能性を模索しながら、もがいていた。

そんなときに出逢ったのが、柴田英寿さんの『会社というおかしな場所で生きる術(実業之日本社)』という本。はじめて読んだときの衝撃は忘れられない。人生に一発逆転なんてありゃしない。それよりも、まずは目の前の現実と立場を愉しみながら、少しずつ変えていくことだ。そのために、会社のなかを、悲観的でなく楽観的に走りぬくこと。会社に自分の人生を奪われるのではなく、むしろ使いこなすこと。それらのノウハウがすべて詰まっていた。

社内外に無数コミュニティを創り、運営し、多くの人と交流し続けてきた著者が、『金になる人脈』という新作を上梓することは、当然の帰結だったのだろう。そして、この本は、他の「人脈術」本と一線を画すという点でも、かなり成功している。人脈についての本はたくさんあるけれど、次の最も重要な三つについて、これほど明確に書いている本はなかった。

1. 人脈ってどうやってつくるの?
2. 人脈で何ができるの?
3. で、それをやったら、結局のところ、どんな良いことがあるの?

1.はコミュニティの立ち上げ方から、「信用できない人は切る」といった超現実的なテクニックまで、どこまでも自身の経験をベースに述べている。2.は出版、大学講師への道、海外の知的団体との交流など、サラリーマンの枠を遥かに超越した実績を見せつけてくれる。そして、3.は本書のテーマでもある不労収入の獲得、該当領域での華々しい経歴として結実していく。何より、人脈を使ったアクティビティの一つ一つが愉しそうなのである。これほどまでに、一般のサラリーマンが、自ら創り上げた人脈を梃子として活躍できる可能性を抉り出した本があっただろうか。

これまでの時代は、「情報をもっていること」に価値があった。これからの時代では「情報を探し集めること」に価値がある。インターネットがもたらした情報の玉石混合の状況にあって、いかに有益な情報に即時にアクセスできるか。それは、各ジャンルの「目利き」をいかに知っているかということであり、ネット社会のなかでこそ、生の人脈に意義があるというパラドクスの一つだ。

では、本書の危険さを最後に指摘しておこう。それは、この本の表面的なメッセージだけを受け取ってはいけない、ということだ。著者がこれほどまでに人脈を広げることができたのは、多大な知識と深い教養をもつ人ゆえだ、ということは忘れないほうが良い。もちろん、著者は本書のなかで、一般教養と読書の大切さを説いてはいる。ただ、最終章の、人脈を金にする具体的事例が面白いがゆえに、基礎能力の必要性を読後に失念してしまうのではないか。冒頭で子供の疑問に答えたとおり、自立している大人にのみ、最高の人脈は与えられる。

目利きたちと対等な関係を結ぶことは、相手にとって「トクだ」と思わせることの提供なしにはありえない。まずは相手にとって自分が金の人脈になること。その努力が、いつしか自分へ返ってくる。著者が実践しているのは、「最高の幸せは、すべて他者から与えられる」という真実にほかならない。

この本を読んだあとに必要なことは、人脈術の実践とともに、自らの実力を磨く不断の努力を忘れないことだ。26文字のアルファベットで、J(人脈:Jinmyaku)と、M(お金:Money)をつなぐものは、K(Knowledge)とL(Leaning)なのだから。

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このような原稿にしておいた。この書評の読者は

1.その本を買いたいと思わせるものでなければならず
2.著者本人も考えてもいなかったようなレベルの深い読解がなされており
3.書評自体が作品(「読み物」)として面白い

にあてはまると思ってくれただろうか。評者の文章が「面白い」と思ってくれることをちょっとだけ期待している。

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