調達観点での新国立競技場失敗の本質

調達観点での新国立競技場失敗の本質

1976年、モントリオールでオリンピックが開催さえれました。この大会
は、きわめて興味深い大会です。なぜか。二つの意味において興味深いのは、
大赤字だったことと、2020年の東京オリンピックに類似していることで
す。この赤字額は約10億ドルといわれます。物価水準として、4倍してみる
と、40億ドルの赤字です。

なぜそれほどの赤字を垂れ流してしまったかといえば、施設建設費が爆発的
に膨れ上がったことにありました。しかも、その建設費を抑止しようとする
動きはほとんどありませんでした。さらに、当時の招致した市長は、公約と
してコンパクトなオリンピックを掲げていました。そのくせに実際は、コン
パクトどころか、新規施設をバンバン建ててしまったのです。ここらへんっ
て今回の東京オリンピックに似ていませんか。

くわえてモントリオールのオリンピックでは、コンパクトな大会と喧伝され
ていたものの、建築家への実際の発注では予算は決められていませんでした。
せっかくなら、と、建築家も行政も豪華な施設を予定してしまったのです。
設計されたのは、なんと開閉式の屋根をもつスタジアムで、あきらかに予算
を抑えようとする意図は見えません。

ここらへんから、東京オリンピックとの相似形が鮮明になってくるのですが、
さらに驚くべき類似点があります。

その類似点とは、工期が遅れに遅れて、結局は大会に間に合わなかったこと
です。なぜ間に合わなかったかといえば、その開閉式の難しさにくわえて、
労働コストの上昇にありました。さらに物資の上昇もありました。それが最
後に、大会史上まれに見る大赤字になってしまい、大きな禍根が残ります。
まさに、現在の新国立競技場のゴタゴタを見るような感覚を覚えます。

このモントリオール大会と東京オリンピックの新国立競技場問題をならべて
論じたひとを知りません。もしかしたら、新聞によっては書いているのかも
しれませんね。でも、テレビなどの報道では、二の舞いであると指摘した局
はなかったように感じます。

さて、(失敗はしたものの)この豪華絢爛の施設がなぜ志向されたのでしょ
うか。それは、スタッフにコスト意識の高いひとがいなかったからです。も
ちろん、警鐘を鳴らすひとはいました。しかし、止められなかった。オリン
ピックだから、最高のものを、と望む行政トップを命がけで静止するひとは
不在だったのです。当時、コンペを主催する側も「歴史的な偉業を成し遂げ
たい」と語る市長が独走してしまったのです。

ところでーー、と私は思います。これは市長だけの責任なのでしょうか。声
が大きいひとが勝つのはどの世でも常ではあります。ただ、それでも、周囲
で流されていたひとは、批判だけできるでしょうか。企業の調達業務でも、
多くの場合、声の大きいひとの意見ばかりが通っているかもしれません。た
だし、止められなかった側の弱さも、私たちはじゅうぶんに自覚的でありた
いのです。

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