購買王様のマネをすればすべてうまくいく

購買王様のマネをすればすべてうまくいく

むかしむかしあるところに購買王様がいました。購買王様の課題はサプライ
ヤ選択と集中でした。なにをいまさら!と自分でも思いましたが、これがな
かなかできていません。だいぶ前に、「これからは限られたサプライヤだけ
とつきあうのです」と宣言したのですが、サプライヤ数がほとんど変わって
いません。

「このバカ野郎! なぜサプライヤ数が減らないんだ!」と王様は購買平民
に怒鳴りつけました。購買平民は困ってしまい、購買課長と一緒になって、
サプライヤ数が減ったように見せかける努力を重ねました。

まずやったことは、言葉の工夫です。かつて「サプライヤ数を減らす」と宣
言しましたが、これを「主要サプライヤ数」と書き換え、購買王様に報告し
だしました。「かつてサプライヤ数は3000社でした。それがいまでは1
000社です!」というと、購買王様はご満悦になりました。はたして「サ
プライヤ」と「主要サプライヤ」に違いはあるのでしょうか。

購買平民は二人っきりになった際に購買課長に聞いてみましたが、「バカ者!
そんなのは気持ちのもちようだ。こちらが主要と思うか、それが大切なんだ」
と一喝しました。「なによりも、私たちは王様の意図通りに資料を作成せね
ばならないのだ!」とも。購買平民は「なるほど!」と叫びました。

次に購買王様は、購買平民と購買課長にコスト削減効果を問いました。それ
だけサプライヤ数が減ったなら、コスト削減できただろう、と。「対外発表
しなきゃいけないわけよ。かっこよくいいたいじゃん」と、プレッシャーを
かけることも忘れません。こまった、こまった。購買平民と購買課長は思い
ました。すると、購買平民は購買課長に相談しました。「最近、原材料が高
騰しているでしょ? その分の値上げを認めていないんですよ。抑制分を、
サプライヤ集約効果ってことにしませんか?」。購買課長は、「おお!なる
ほど!」と叫びました。

購買課長は「そういえば、円安分でサプライヤが困っているぶんも、認めて
いないんじゃないか?」と訊きました。「おお! そうでした。ただし、そ
れもサプライヤ集約効果でしょうか」。「当たり前だ。集約すれば、一つの
サプライヤを脅す時間も増えるじゃないか!」。購買平民は感心しました。
「なるほど! それなら、いくらでも集約効果を捏造できます! やっほう
!」。購買課長は「このバカ野郎! 捏造ではない。発見というのだ」と怒
りました。

しかし、これで終わりではありませんでした……。

購買王様への報告を無事に終えた購買課長と購買平民は帰路につきました。
「ところで、購買課長に質問です。そもそも、なんで集約したら価格が安く
なるっていう理屈になるんですか?」購買平民は訊きました。購買課長は
「調達の世界で理論を求めてはいけない」と一蹴しました。「あえていうと、
こういうことだ。これまでサプライヤがこれまで1億円の売上高だとする。
それが3億円になるわけだ。もともとの1億円には、迷惑代が入っている」。
「迷惑代って?」と購買平民が訊きました。

「それはだな。サプライヤの社長というのは、購買王様が話す調達方針説明
会に行った帰りに、社長室を破壊する性質を持っているのだよ。『あのバカ
王様め。勝手なことばかり言いやがって! 買う立場を利用した下請けイジ
メじゃないか!』って、暴れまわるのだよ」。購買平民は納得しました。
「そうか! 売上高が3倍になっても、社長室は一つしか壊せないから……」。
「購買平民よ、その通りだ。だから、その差額をサプライヤは安くできるの
だよ」。

「へええ! 調達の世界って、理論的じゃないですか」。「いや、本来は理
論的なのだよ。私も若いころは、営業マンが『あの馬鹿バイヤーの野郎!』
と叫びながら机を壊してしまうコストを計算したものだよ」。「すごい!」。
「電話では『納期を一日でも縮められるよう努めます』と言いながら、電話
を切ったら『注文が遅いんだよクソ野郎』と愚痴りながら机を蹴れば、そこ
が凹みとなり、机という資産が減価してしまうよな」。「なるほど、という
ことは、集約すべきサプライヤは、キック力が弱い営業マンが多いところで
すね」。「だからお前は甘いんだ。なぜ、腕力に注目しない? 『注文が遅
いんだよクソ野郎』と叫びながら、ペンをへし折る可能性だってあるだろ」。
「なるほど、間接材コスト削減にもつながるのですね!」……。

それから、何日ほど経ったころでしょう。

購買王様は、マイクの前に立っていました。この日は、調達方針説明会でし
た。購買王様は語り始めました。「私たちと、みなさまとの関係は、お互い
を重んじる永続的なものだと考えております。もちろん、我々の要求をすべ
てのんでいただける前提においては、でございますが」。あまりに高度なギ
ャグすぎて、誰もすぐには理解できませんでした。

それを聞いていた購買課長と購買平民は、「ほらね、あの発言がサプライヤ
社長を怒らせるのだよ」と囁きあいました。

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もちろん、この購買王様の話は私の創作だが、実利なき「選択と集中」が跋
扈しないことを祈る。

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