AKB48の経済効果?(坂口孝則)

AKB48の経済効果?(坂口孝則)

オスカープロモーションの主催する「全日本国民的美少女コンテスト」がある。多くのひとが知るとおり、上戸彩さんや武井咲さんなどのスターはここから誕生した。オスカープロモーションは応募資格として「12~20才までの美少女」とし、条件で「圧倒的な輝きを放つ美しい容姿」「秘められた神秘性」などをあげている。応募する女性たちはここで苦笑しないのだろうか。あるいは他薦であったら大丈夫なのか。12歳の少女にバスト、ウエスト、ヒップを訊くのはどうかと思う。ただ、芸能界を生き抜くためには、この程度の条件を気にしない精神的タフさが求められるかもしれない。冗談である。

それはいいとして、驚くのは毎回10万人前後もの応募があることだ。総務省統計局が発表している統計データによると、同年齢の人口は540万人ほどだ。まったく対象外のひともいるはずだが(失礼)、それを無視して考えても、全国の中学高校30人クラスの2教室に一人は応募していることになる。

あくまで私見だが、「全日本国民的美少女コンテスト」で各章を受賞した美少女はたしかに群をぬいてレベルが高いと思う。スポットライトを浴びる、そして人並み以上の生活をおくる。たくさんの女性が彼女たちを目指す理由はよくわかる。

現在、日本の給与所得者の給与水準が低下しているといわれている。国税庁「平成22年度民間給与実態統計調査」によると、約10年前の2001年に454万円だった給与所得者の年収が、2010年には412万円となった。それにたいし、芸能界のトップになれば、一回のCM起用で3000万円以上を稼ぎ出す。

しかも昨今の美少女アイドルグループの流行により、その願望は強くなってきたように思われる。最近では、乃木坂46のオーディションに約4万人が殺到した。男性はアイドルを求め、女性はアイドルになりたがる。前田敦子さんが卒業することになるAKB48をはじめとして、乃木坂46、アリス十番、など私たち彼女たち「美少女」を見ない日はない。海外を歩いていても、これほど街中の雑誌に少女たちが表紙を飾っている国を見つけることは難しい。

製造業が斜陽となっている日本において、美少女たちの発売する商品は売れ続ける。彼女たちのソフトパワーが次なる産業だというひとまでいる。

実際はどうなのだろうか。有名なところでは、AKB48の経済効果が200~300億円だという説だ。たしかに、AKB48は2011年の音楽ソフト売上がなんと162億円にも達したという。アーティストとしてトップだ。AKBの音楽ソフトが売れれば、物販も売れる、その物流を請け負う、運送業も盛況になる。あるいは情報通信業も恩恵があり、さらにAKBを使った企業宣伝が活発になるため制作スタッフが潤い、書籍など出版物も売れる……と、まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」的な波及効果があるというのだ。それが、162億円から、200~300億円までふくらむロジックだ。

さて、ここから私の考えを述べる。「AKB48の経済効果200~300億円」説は、正直いって疑わしいと思う。おそらく、これを述べるひとたちは、国の産業連関表を利用して計算しただけではないか。産業連関表とは、統計局のホームページからダウンロードできるもので、どこかの産業で新規需要が生じたさいの経済波及効果の予測をするものだ。そのエクセルの「商業」欄に新規需要に162億円と入れてみた。結果、経済波及効果は245億円と出た。

なんだよ、そのままじゃないか。これなら誰だってAKB48について経済評論家っぽく語ることができる。乃木坂46だってKARAだって、音楽ソフトの売上高さえわかれば、それなりの「解説」ができることになる。

この数字を使ってか使わずか、「AKB48の経済効果200~300億円」といっているひとの、何が疑わしいか。それは、代替の作用を考えていないからだ。たとえば、AKB48のCDを買うひとがいる。何枚も買い集めれば、そのぶんのお金を捻出するために、何かをケチる。お金は無限ではない。3000円を払うことで、犠牲になり売れなくなった商品があるはずだ。それは他のアーティストかもしれないし、あるいは夕飯のおかずが一つ減らされるかもしれない。そのマイナスぶんを考慮しないと、ほんとうの経済効果はでない。

そして、巷間に流布する経済効果値には、そのマイナスぶんが考慮されていない。この意味で、アイドルにかかわる景気のいい経済効果予測はほとんど意味がない。もっといえば、ニュースで流れる多数の経済効果予測は意味がないと私は思う。

たしかに、各グループの売上や利益は相当なものだ。しかし、それは日本経済に直接波及するものではなく、アイドルは文字どおり「偶像」として楽しむ程度がふさわしい。

ところで、私はAKB48がまったく日本経済に影響しないといいたいのだろうか。とんでもない。もし外国人にAKB48のコンテンツが売れれば、相殺対象は日本商品でなくなる。その意味で、私たちが応援すべきは、彼女たちの海外進出だ。ぼくたちのアイドル、から、世界のアイドルへの脱皮。

「全日本国民的美少女コンテスト」に応募する美少女たちの目標が「全日本」ではなく「全世界」であることを祈る。

え、TPPでアメリカがアメ車を買えって日本に言ってきたら? 代わりにAKBを買えっていってやればいいじゃないか。

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