ISM総会に出席して(牧野直哉)

ISM総会に出席して(牧野直哉)

アメリカのオーランドで開催された第96回ISM総会に出席してきました。なかなか調達・購買の事だけを考える機会はありません。昨年に引き続き、本メールマガジンの共同執筆者である坂口さんともご一緒しました。出席したカンファレンスの内容は、この有料マガジンや他の機会にお話しするとして、まず今回の概要についてお知らせします。

● 増える日本人、でも……

昨年は、日本から4名の出席でした。出席者が増えるといいなと思っていた今年は7名。昨年のサンディエゴと異なり、日本からは遠いオーランド開催で出席者が増えたことは、とっても喜ばしいことです。しかし、アジアからの出席者で目立ったのは韓国からの人々でした。LGやサムスンといった大手企業のバイヤーが連れ立って出席し、会場内に専用の待機所も設けています。日本と違って、韓国では調達・購買の重要性がより認識されていることの裏返しなのでしょう。昨年よりも目立った隣国の、それも若いバイヤー達の姿は、とても印象的でした。

● 製造業復権

先日もご紹介した米国の製造業復権。今年の基調講演は、デルファイの副社長でした。製造業のサプライチェーンで働く私は、詳細がどのように語られるのかワクワクして臨みました。プログラムも製造業向のカンファレンスも増え、どれも非常に多くのバイヤーが出席していました。昨年の基調講演で、内容そしてプレゼン方法に大きな衝撃を受けました。そして今年は……と、期待に胸ふくらませて出席すると、それほど印象的な内容ではありません。アメリカ人=プレゼンの達人ではないわけですよね、当たり前ですけど。

経済概況を語る講演でも、製造業の好調ぶりは目を見張るものがありました。製造業と比較すると成長率こそ劣るものの、非製造業もしっかり成長しています。米国製造業が好調であるその原因は輸出です。そして、今更と思われるかもしれませんが、グローバル化が進展している真っ直中である、そんな印象を受けました。

● リーン

今回の製造業系のカンファレンスでは、キーワードとして「リーン」という言葉が数多く語られました。あわせて多く聞いた言葉に「トータルコスト」があります。「60秒でトータルコストを掌握する方法」なんて、日本では本の題名になりそうなカンファレンスもありました。これは、次のような理由によるものです。

1. グローバル化の進展は、サプライチェーンを物理的に長くした

2. グローバルベースでは、コストの構成要素も多様化・複雑化し、トータルコストの掌握・見極めが難しくなった

3. 結果、物理的に長くなったサプライチェーンには、多くの無理・無駄を内包する結果となった

4. まず、同じ基準でのグローバルサプライチェーン上のソース毎のコスト掌

5. その上で、無理無駄をそぎ落とすアクションとしてのリーン化を志向

例としては、英国の工場でドイツそして韓国のサプライヤーから調達するそれぞれのケースが紹介されていました。自動車部品メーカーが提供した内容です。印象的だったのは、輸送と一言でいっても、分ベースでリードタイムが情報として収集されていたことです。おおざっぱに何日ではありません。分単位のデータを持つためには、日単位、時間単位よりも詳細なデータ収集が求められます。事実、韓国から輸出する際の細かな現地慣習にまで踏み込んだ言及がありました。

それほど細かなデータ収集を、事前に膨大な時間とコストを費やしておこなうことによって、迅速かつ正確な意思決定を行なうことが可能になる、そのような論調でした。ただ人件費が安価であることにフォーカスし、実際には品質問題、納期問題の多発で、そもそも期待した効果を得られないといったことを極力排除するのも、一つの重要な期待される効果になりますね。

品質問題については、ドイツと韓国の例に興味深い数値がありました。「リスクプレミアム」と題されたその数値。詳細内容について説明はありませんでした。ドイツは低く、韓国は高く設定されていました。カンファレンスが終わってその内容を質問してみました。当然、算出根拠は教えてもらえなかったのですが、次のような要素で構成されているとの回答がありました。

(1) 英国の工場での調達を想定しているので、物理的に遠いアジアのサプライヤーは、リスクプレミアムの数値が高くなる傾向

(2) グローバルで統一されたサプライヤー評価基準(QCD+α)による結果に基づいて基礎となる数値を算出している

(3) 輸送時のリスクは自社では算出不可能なので、輸送会社から提供を受けた数値を採用している

この説明を受けた後、では日本のサプライヤーのリスクプレミアムは、震災によって大きく上昇したのか、と質問すると、次の見直し(半年毎)で反映されると回答がありました。

このケースは、自動車部品メーカーだからここまで行なったといえます。私の勤務先で同じような取り組みが費用対効果で妥当かどうか疑問です。グローバル化の進展は、国や民族の違いによって異なる商慣習が、コスト詳細が微妙に異なった発生要因になること。その部分をそのまま捨て置くのか、トコトンまで追求するのか、それともどこかで妥協点を見いだすのか、私自身にも大きな課題を残す「リーン」というキーワードでした。

● 除く、日本

これは経済概況の講演におけるグラフで用いられていた言葉です。主要国と異なるトレンドを示すグラフに日本のデータは除くという意味で表記されていました。このことは、私は非常に重要で、日本にとっては深刻に受け止める必要があると考えています。

各種報道でも伝えられている通り、日本は世界第三位の経済大国になりました。バブル以降目立った成長はなくとも、いまだ世界第三位の地位にいるのです。しかし「除く、日本」で一流のエコノミストが経済のトレンドを語るわけです。実体経済が示す数値よりも、世界経済へ与える影響が少なくなっているのが日本の真の姿ということでしょう。事実、今回出席したISM総会にしても、日本人は一桁の参加です。数で圧倒することだけが手段ではないですね。しかし、より影響力が少なくなっていることは、バイヤーとして深く認識する必要があると感じています。単純に言えば、市場で重きをなさない存在になっている、舐められているわけですからね。バイヤーが何か買うときだって、過去との比較ではより劣勢に立たされるような状況を想定する必要があるでしょう。これは、私自身も考えすぎであることを願っています。

出席する前に、私は「きっかけ」を求めると書きました。そういう意味では、期待通り様々なきっかけを得ることができました。少しずつ、皆様にそのエッセンスを伝えてゆきたいと思っています。

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