私がコストテーブルと初めて出会ったのは、社会人としての第一歩を踏み出した営業部門へ配属されてまもなくの頃です。自社製品についての製造・購入といった原価がまとめられて「コストテーブル」と称されていました。実際の見積作業に利用するのです。印刷部数が厳格に管理され、それぞれナンバリングが施されて、厳重に管理されていました。まさに営業のバイブルとしての扱いでした。

一方、問題も有りました。販売価格の下落のスピードと、コストテーブルの更新頻度のアンマッチによって、コストテーブル通りに見積書を作成すると、競合メーカーに勝てないのです。当時、営業だった私は、購入品に関しては最新の購入単価を追いかけ、組み立て工数は、経験曲線を論拠にしたあるべき工数を「予算」として、見積書へ反映する為に社内調整を行なっていました。結果、コストテーブルより低いコストでの見積作成が当たり前となり、翌年からコストテーブルが発行されなくなりました。

「厳格から蔑ろへ」多くのコストテーブルが同じような末路を辿るのではないでしょうか。営業から資材部門へ異動した私に渡されたコストテーブルも、紙の色が変色し、使い古されたものでした。作成された方は、既に会社を退職されていました。営業時代に厳格なコストテーブルから、蔑ろにされるコストテーブルを見てきた私には、そのまま使う事はできません。ここから、私のコストテーブルとの戦いが始まるのです。

「厳格なコストテーブル」とはどんなものでしょうか。

先の例に示したとおり、門外不出の神聖で厳格なもの、とでも言いましょうか。事実、私が営業時代には「原典:コストテーブル」と書けば、そこに異を唱える人はいませんでした。

一方「蔑ろにされるコストテーブル」とはどんなものか。

これは「実態と乖離して役立たない」に尽きます。そのままでは市場価格にミートしない=受注できない数字が載っているコストテーブルなど営業活動には何の役にも立ちません。

結論から先に言えば、コストテーブルとは厳格なものでもなければ、蔑ろにするものでもありません。一言で言えば「仮定」です。作成時に適正な目的を持って、活用方法を誤らなければ、バイヤーには大きな武器となります。事実、バイヤーとなって十数年の今でも私はコストテーブルを更新し続けています。そして、この有料マガジンの読者であれば、誰もが持っているツールを活用することで、コストテーブルは様々な活用の路が開けます。時には、自分の仕事を効率的に進めるために、上司を合理的に欺く手段としても、です。

まず、なぜ厳格ではダメなのか。

コストテーブル原理主義とも呼びたくなる扱いをされるバイヤーがいます。この本( http://amzn.to/9uFHVr )にも書かれている「コストテーブル的にはどうなのか」との言葉(お持ちの方は、89ページをご参照ください。コストテーブルによって勃発した戦いの顛末が記されています)に象徴されるコストテーブルへの盲信です。

例えば、このページをご参照ください。銅・鉛・亜鉛の3種の相場のグラフが示されています。どのグラフも、大きな変動の跡が伺えますね。

コストテーブルの厳格さの根源には、製品に対して一つのコストが掲載されている点が挙げられます。これは、数字を利用する側にとって非常に便利ですね。しかし、ほんとうに数字は一つ、それが正しいと言えるのでしょうか。私が購入している機械関連の製品で、継続的に購入している場合は、一定期間は同じ価格で購入しています。しかし、発生コストの観点からすれば、決して同じではないはずです。原材料費の市況の変動、材料歩留まりの状況、経験を積むことでの熟練度向上による経験曲線効果等々、変動要因ばかりです。今年の夏は観測史上始まって以来の猛暑だったそうです。例えば、製造現場にエアコンを使用したり、スポットクーラーを使用したりしている場合、今年の夏の電気代も近年では高レベルであるはずです。

一つの価格でモノを買う。この行為は、売り手・買い手の双方にメリットがあります。事務手続きや、購買システムによっては、継続購入に際して見積の授受も不要にする等、簡略化されていることでしょう。しかし、一方で発生しているコストは、厳密に言えば日々異なっています。従い、一種類の価格とは厳格にはあり得ない、売り手と買い手の都合によって、そうみなされている、とすべきです。従い「みなす」ことが、合理的で論理的に妥当性を持つ限りにおいて、みなされた価格が掲載されたコストテーブルが効力を発揮するのです。

そして、蔑ろにするのは、なぜダメなのか。

私が強く思う、残念なバイヤーの典型的な発言の例に「まだ見積が来ない(=価格がわからない)」があります。確かに人員削減によって営業マンの数が削られ、バイヤーの欲しいときに、見積を提示できない場合もあるでしょう。そして、バイヤー企業側では、コストのフォローが行なわれます。そんな中、ある製品を担当するバイヤーが、価格を提示できない理由として見積の未着を挙げる。話の経緯によっては、その理由が妥当性を持つ場合が有るかもしれません。しかし、自ら担当する製品であれば、当たらずとも遠からずな数値を提示することが必要なはずです。

そして、サプライヤーから見積を提示されたとき、見積金額を見た瞬間のバイヤーの第一声も重要です。判で押したように「高い」を連呼するよりも、自分の見立ての金額との違いを具体的に質問する方が、営業マンにより手強いバイヤーとして写るはずです。

過去に類似品の購入実績が一点でもあれば、コストテーブルの作成は可能です。コストテーブルの作成には、どうやってモノができるのか、という視点が不可欠です。モノの成り立ちを理解する過程が、イコール適正なコストテーブル完成への最短距離といえます。そして、本論の中で述べますが、コストテーブルを活用することで、日々のコスト削減や、適正なサプライヤー選定といった部分へも効果的な影響を及ぼすのです。


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