イチローとマツイとの間に存在する格差

アメリカ大リーグで活躍する日本人選手を代表する二人、イチローとマツイとの間には、ある条件の下で3倍もの格差が存在することをしっているだろうか。マツイがイチローの3倍なのである。

先日アメリカ大リーグのワールドシリーズで、ニューヨークヤンキースが勝利。マツイがみごとMVPの栄冠に輝いた。現在マツイの来年以降所属するチームの去就が注目されているが、ヤンキースへ残っても、はたまた別のチームへ移籍しても、活躍を続けて欲しい。

そしてイチロー。今年のWBCでの不調、後の体調不良による故障者リスト入り。シーズン途中にもケガとの逆境の見舞われる中で、200本安打を9年連続で達成したことは、ほんとうに素晴らしい。後のインタビューで、WBCのあの場面でタイムリーヒットを打った事を語るイチローを見たが、なにか常人には到底経験することが無い大きなプレッシャーの中でのヒットであったことがうかがえる内容であった。

この両者を表して、「記録のイチロー、記憶のマツイ」といった言い方もあるらしい。しかし、方法論は違っても、野球を愛し、レベルの高い活動の場を自ら求めて大リーグへ挑戦し、それぞれ結果を出していることは、記録だろうと、記憶だろうと関係なく賞賛に値する。プレーのスタイルにこそ違いはあっても、日本でのスーパースターの地位を捨て、世界一のプレーヤーが集う場所に身を投じ、なお大活躍していることは、日本人にとってほんとうに誇らしい存在だ。二人の野球に対する姿勢は素晴らしいし、大きな差は見出せない。しかし、事実3倍もの格差が生じている部分があるのである。

この格差とは、ある都市での1試合観戦料金の差額。ある都市のホームチームがヤンキース、マリナーズを向かえておこなう試合を観戦する場合、マリナーズの試合よりもヤンキースの試合の方が、入場料が3倍高額なのである。そして3倍の値段でもヤンキースには人気があって客が集まる。ヤンキースはスター選手を抱えており、人気が全国区であるが故であろうか。3倍の格差をもってしても、ヤンキース戦のチケットの入手は困難を極めるらしい。

しかし、である。イチローもマツイもこのような格差はまったく意識していないだろう。マツイの場合は、常に高い入場料金を支払ったお客の前でプレーすることになるので、そもそもどの試合であっても格差が無い。イチローの場合は、ヤンキースとの試合と、他のチームとでは、お客様の支払っている入場料金が異なっている。しかし、イチロー選手の日々の決して弛むことのない努力と精一杯のプレーは、彼が残した記録にあらわれている。従い、お客様の支払う入場料に歴然として差があることなど意識していないであろう。たとえば、優勝を目の前にした戦いでは精神的な高揚感はあるだろうが、「あー今日はヤンキースが相手で、入場料も3倍だから、いつもより頑張ってプレーしよう」とか、「ヤンキース以外は入場料も安いから、そこそこにケガしないように」なんてことはつゆほども思っていないはずである。

ここで、我々にとっての「格差」を考えてみたい。この場合、いわゆる経済的な格差である。つまるところ経済的格差に関する明確な定義は存在しない。先月、政府が初めて発表した日本の貧困率は、2007年で15.7%となっている。100人に15人強が貧困状態にあるということだ。格差が拡大しているとの議論にも千差万別の意見が存在している。拡大し始めた時期にしても、バブル期だとか、90年代後半とか、2000年以降とか。というわけで、つまるところよくわからない。良くわからないけど、自分がその格差の中でどういったポジションにあるのか、は気になる。それが人の常と言うものであろう。問題はその気にする方法である。

バイヤーであれば、仕事をしながらバイイングパワーの強い会社との自社の間に存在する価格決定に及ぼす影響力の格差を常に意識しているのではないだろうか。トヨタが……パナソニックが……といったその業界でのトップ企業の持つバイイングパワーと、自社のそれを比較して途方に暮れるのである。あるサービスの買い方について、トヨタの事例が紹介されていた。するとあるバイヤーがこういったのである。

「それは、トヨタだからできることだよ」

この発言の内容は正しい。ちなみにこの手法は、あるサービスに付帯されている様々な特典を一切返上して、本質的な部分にのみフォーカスし、低価格を引き出すといった内容。サービスの提供側からすれば、競合他社との差別的優位性を高めるために、そして提供するサービスの価格下落を避けるためにおこなった創意工夫の結果、提供している付帯サービスを一切不要とされ、本質的な部分の価格競争力にのみフォーカスされたことになる。こういった相手の、販売の仕組みそのものを崩すような提案は、バイイングパワーが強いからこそできるアクションであろう。しかし、である。だからといって「トヨタだからできることだよ」で終わってしまうか、その発言の後に「だからうちでは……」と、思い悩むのとでは大きな差を生む。格差にまつわる忌々しき問題は、その存在を是認し以降思考停止になってしまうことだ。バイヤーとしては、大きなバイイングパワーを目の前に「あそこだからできるんだよ~うちでは無理」そう言い切って終わってしまうことが、新たな格差の土壌になっているのだ。

ちなみにイチローの年俸は18億円、マツイは13億円だ。これは二人の能力の評価に沿って支払われているもので、冒頭に説明した入場料の差額をイチローのプレーの内容が凌駕した結果に他ならない。いうなれば、格差を気にすることなく、自らの進む道での弛まぬ努力が生んだ成果といえる。二人の年俸と自分の収入を比較するときに発生する思考停止は止むを得ない。バイヤーを生業にしている我々と二人の間に存在する格差を埋める手段が見出せないからだ。しかし、イチローはマツイとの間に歴然と存在する格差を気にして尚、思考停止に陥るような姿勢は見られない。そもそも二人の年俸に、入場料の格差など影響はしていないのだ。

格差を喧伝する世相に戸惑うよりも、格差を無視し己の進むべきバイヤー道に精進し、あるべきバイヤーの姿を突き詰める。そんな生き方をイチローとマツイから私は学んでいる。


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