開始当初は好調だった今年の大河ドラマ「龍馬伝」。最近視聴率が低落傾向らしいですね。私は調達・購買と同じく、今から二十数年前に司馬遼太郎さんの「龍馬がゆく」を読んで以来、坂本龍馬の大ファンとなりました。以降、坂本龍馬に関する小説や漫画に触れ、先祖の墓よりも龍馬さんの墓へ行くことが多いくらいです。

坂本龍馬が明治維新の立役者として注目されたのは、明治16年に高知の新聞連載によってです。そして日露戦争の開戦の折、皇后の枕元に坂本龍馬がたった、というほんとうかどうかもわからない話によって、全国的に有名になったとされています。現在の坂本龍馬のイメージといえば「龍馬がゆく」によるものですね。それ以外にも、今回の大河ドラマの原作しかり、津本陽さんも「龍馬」という本を書かれています。

坂本龍馬は、書いた手紙が多く残っていることでも有名です。多分、私が持っている本の中で一番高価なこの本にも、沢山の手紙が収録されています。そして様々な歴史家の研究による文献にも目を通しています。坂本龍馬をもっと知りたい!との思いからです。しかし、フィクションでない史実の中での坂本龍馬は、「龍馬がゆく」や、「龍馬伝」のなかのそれとちょっと違うとの印象を持っています。

坂本龍馬と同時代に生きた人が、後になって坂本龍馬について語っています。勝海舟、陸奥宗光、その発言の内容が、ずいぶんと美化されているように思えてならないのです。同じ時を過ごした人による情感に満ちた追想によって、実態とは異なる龍馬像が闊歩しているようなのです。

例えば薩長同盟です。

長州藩の桂小五郎が、同盟の締結書への裏書きを頼んだ逸話が、龍馬を薩長同盟の立役者の中心に据えています。今回の龍馬伝でも、中岡慎太郎が同じ時期に同じ事を考えていたとのストーリーになっていました。しかし、史実を読み進めると、これは中岡慎太郎のアイデアに、龍馬が乗ったと判断する資料が多数あります。薩摩、長州の明治維新の立役者が、すべて藩の要職にあったのと比較して、脱藩浪士であった龍馬、中岡による薩長同盟の締結は、とても痛快です。龍馬が中心に位置するのに、勝海舟の「全部龍馬がやったことさ」という言葉も大きく影響しているでしょう。しかし、私が様々な文献を読み進めると、中岡慎太郎の存在が大きくなってしまいます。

そして大政奉還の後、新政府の参議の中に龍馬の名前がないことを不審に思った西郷と行なわれたとされる会話も、龍馬像を形作るのに大きな役割を担っています。文献によれば、龍馬の参謀役として倒幕に奔走した後の外務大臣陸奥宗光が回想したとも言われている「世界の海援隊をやります」との言葉。しかし、これは大正時代に書かれた創作であることが解っています。

私は、このような事を知ったところで、坂本龍馬への畏敬の念はいささかも揺らぎません。現存する写真の、なにか未来を見通すような、あの目にしても、実は近眼だったといわれても、その写真から醸し出される彼の雰囲気を壊すモノではありません。彼の人間的な魅力がそう言わしめたものだと考えています。いうなれば、周囲の人間が坂本龍馬を美化している。周囲によって美化される能力です。この「周囲によって美化される能力」を持つことは、我々にバイヤーにも、とっても重要な意味を持ちます。

皆さんがお勤めの企業で、バイヤーと例えば設計担当者、設計以外でもサプライヤーと直接コンタクトを持つ人間はどれくらいいるでしょうか。私は現在百数十人が働くメーカーに勤務していますが、それでも数十人に及びます。と、いうことは、自社の数十人が、私のいない場所で私のことを話題にする可能性が有るわけです。

人との関係の深さは、いろいろな要素によって決定されますね。例えば、設計担当者といっても、一緒に出張に行って寝食を共にし、人となりが理解できている人もいれば、事務的なやり取りしかしていない、人となりがいまいちわからない人もいる。よくわからない人の印象に大きな影響を及ぼすのは、実はよく知っている人の評価だったりします。そこで、美化とは言わないまでも「良くやってくれているよ」とか「助かっている」と言って貰うのと、「彼はね~何にもしないんだよね~」と揶揄されるのとでは、大きく違ってきます。

自分が信頼している人が、全幅の信頼を置いている人。ちょっとしたエピソードを聞かされれば、全くの他人であっても、悪い印象は持ちませんね。極端な例で言えば、今放送している「龍馬伝」でも、高杉晋作が桂小五郎の「土佐の坂本龍馬は信頼できる」との言葉で、龍馬を信頼するシーンが登場します。まさに自分が信頼している人が信頼を置いていれば、同じように信頼に値するが表現されています。

設計部門に比べれば、確実に下流部門に位置する調達・購買部門です。全幅の信頼に裏打ちされた美化されたバイヤーとしてのエピソードは、我々の仕事に確実にプラスになります。では、美化される力はどのようにつけるべきか。この答えも「龍馬伝」のなかに見ることができます。

薩長同盟の成立過程で、幕府との戦いに備える長州藩は、武器の確保に苦労します。龍馬は、自らつくった日本初の商事会社である亀山社中を実働部隊として、購入名義を薩摩藩、購入原資は長州藩という、今で言うバイヤーズクレジットをアレンジします。そこで調達を持ちかけられたグラバーが、龍馬に聞きます。おまえの取り分はいくらなのかと。すると龍馬はゼロと答えます。にわかには信じられないグラバーは、龍馬に理由を問いただします。そして龍馬はこう答えます。

「私心があっては志とはいわない、自分のことはどうでもいい」

格好良いですね。ただ、額面通りに受け取ってはいません。実際、購入した軍艦を亀山社中は利用して貿易をしようというしたたかさもあります。そのような思いはおくびにも出さずに、格好良い台詞を吐くわけです。ただ、あながちドラマの中の話と流せないと思いますよ。だって私心アリアリのバイヤーってダメですよね。

こう書いていると、私も坂本龍馬を美化していますね。坂本龍馬にまつわるいろいろな逸話、明治維新の立役者であることや、日本ではじめて新婚旅行へいったことは有名です。しかし、いろいろな文献から読み取れる彼の生き様は、まさに私が理想とするバイヤーそのものです。私は彼が日本で最初のバイヤーではないかとすら思っています。そのような視点で「龍馬伝」を楽しんでいるのです。

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