・3億円の申告漏れの陰で考えるべきこと

茂木健一郎さんの申告漏れが報道されました。茂木さんは、06年から08年までのあいだに某社の研究員として年間1,000万円、そして印税や企業の講演料で3~4億円の所得があったということです。この事件で、私が驚いたことは二つに集約されます。

1.まったく申告を実施していなかったにもかかわらず、これまで放置されていたという事実

2.あれだけ異常な活躍をしていたのに、年間で計算すると1億円ちょっとであったという事実

もしかすると、2.は「(笑)」とつけるべきだったのかもしれません。いくらなんでも、某社の研究員として年収1,000万円というのは低すぎるのではないか(笑) そう感じた人が100万人はいたと予想されます(当社調べ)。

順に考えていきましょう。

まずは1.です。かつて、某政治家が(鳩山総理に先日の予算委員会で質問に立った、あの自民党代議士です)生活費をすべて経費として計算し、かつ数年にわたって、まったく確定申告を行わない、ということが起きました。もちろん、その後指摘されたのですが、それであっても、この姿勢は一般人の想像を超えているものです。

普通のサラリーマンであれば、源泉徴収されているのが普通ですし、個人事業者もビクビクしながら年度の税金を申告しているのが普通でしょう。たった数千円の経費を「計上すべきか、計上しないべきか」ということを日々考え、税務署に提出するときは、「問題がありませんように」と願いつつ、ささやかな資産のなかから、税額を払い込むのが小市民の慣わしなのです。

もし、茂木さんの例がほんとうだとすると、「まったく税金を支払わないのに平気でいられる猛者」と「税金に悩み、身を削って税金を支払っている一般人」という構図が見えてきます。今回、修正申告に伴って茂木さんが支払った税金は1億数千万円に上るそうです。

しかし、税の基本はその平等性、にあります。税務職員に対しては、その強引さや恣意的行為に根強い批判があるものの、「まったく支払わない人」の存在が明らかになれば、誰も税金を払おうとしないでしょう。

次に2.です。私は茂木さんに一度だけお目にかかったことがあります(ご本人はお忘れでしょうが)。それゆえに贔屓目で見ているわけではなく、本人はたしかに人格者であり、周囲の配慮にも優れた人です。

茂木さんは、おそらく日本でもトップクラスの働きをなさっています。おそらくまともな休日はこの数年間ないのではないか。酒を飲むことは多いようですが、それでも、かなりの数が仕事関係者とのものであろうことは想像できます。執筆や各種メディアへの登場、その他雑事を含めると、恐ろしい時間を費やしていることは間違いありません。

ここで誤解いただきたくないのは、茂木さんが非効率であるといいたいわけではありません。一般人の仕事10時間分を、2時間に短縮できたとしても、一般人の10倍もの仕事が降りかかれば、誰だって時間が足りなくなるのは当然だからです。

そのなかで、某社の研究員としての年収1,000万円という意味が不思議に思えます。もちろん、日本の企業では、能力に完全比例して年収が上がっていくわけではありません。ただ、それにしても、これほどの能力を持ち、すでに他領域でこれほど「稼げる能力」を発揮している人を1年間拘束して1,000万円とはあまりに低いのではないか。そう邪推してしまうことは不遜でしょうか。ただ、ほんとうに年収1,000万円でよければ、広告塔としてより高い年収で茂木さんを雇いたいという人も出てくるのではないか。研究施設を提供しても、広告費代わりとしてはかなりのメリットがあるでしょうから。

・茂木さんの年収とビジネスマンの限界

しかし、その申告額が年間で1億円ちょっとだったという事実はたしかのようです。現在、給与所得者の平均が400万円ちょっと。上場企業の平均でも500万円半ばなのでその差は20~25倍程度ということができます。この差をどう思うでしょうか。

ちなみに、統計根拠がはっきりしないものの、日々メディアに出ている芸能人の平均は
1,000万円ちょっとだそうです。野心的な人であれば、「芸能人の平均には勝てそうだ」と思ったのではないか(笑) 印象は人によって違うでしょうが、ここから得ることのできる事実は、「目立つ人ほど稼げるわけではない」というものです。隠れた、誰も知らない、数千万円の年収を得ている人は、想像以上にたくさんいます。5千万円を稼いでいた外資系投資銀行のプレイヤーはたくさんいました。その人たちは、目立たないために、私のような一般人と知り合うことがないだけです。

考えてみれば、そのような金持ちが、一般企業に勤めるサラリーマンたちと知人になる、という機会が少ないことに気づきます。私も金融資産を数億円保有している人を二人知っていますが、ある偶然の出会いがなければ、そのような人たちの存在すら知らなかったでしょう。

茂木さんも、もともとはサラリーマンでした。そのままだったら、誰からも知られない存在だったかもしれません。ただ、茂木さんの場合は、そのサラリーマンという立場から、多忙な日々に突入し、1億円を突破したあとに税務指摘を受けたというわけです。それは劇的な変化のように思えて、いっぽうで、誰にでも起こりうることなのではないかとすら感じます。

私が、茂木さんの申告漏れに注目したのは、他の申告漏れニュースと違って、茂木さんが一般の「ビジネスマン」ということです。つまり、他の申告漏れのニュースは、起業家、会社社長、芸能人、スポーツ選手、あるいはデイトレーダー、親から莫大な遺産を相続した……などという例がほとんどです。それにあてはまらない「裸一貫で頑張っているビジネスマン」の申告漏れニュースはきわめて異例といえます。

ところで、突然の質問ですが、みなさんの希望年収はいくらでしょうか。茂木さんレベルで活躍し、日々の山のような仕事をこなし、メディアに出っぱなしでも、1億円だったということは記憶しておいてもよいように思えます。もちろん、多額ですが、それでも日本一活躍しているビジネスマンが1億円だった、と。

逆に、企業経営者などでは、1億円は珍しくありません。これが、「個人プレイヤー」と「組織を操る人」のあいだにある径庭なのです。以前、名前はいえませんが、日本でもっとも稼いだ小説家の生涯印税は300億円だったと聞きました。もちろん、300億円という数字は莫大過ぎて私の想像力を超えていますが、それでもなお、資産家の企業経営者と比べるとはるかに低いレベルにあることは知っておくべきです。

茂木さんの申告漏れの件は、起業家でもなく、会社経営者でもなく、芸能人でもなく、スポーツ選手でもない、いわば「ビジネスマン」の上限年収を鮮やかに曝け出した、ある意味記念碑的な出来事だったのです。

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