忙しい中でも、心と体を癒す休息のひととき。癒しを演出するアイテムにはいろいろあるけれども、なかでもコーヒーで一息つくという方も多いのではないだろうか。私もスターバックスコーヒーや、タリーズといったカフェにはいろいろな場面でお世話になっている。

私は自分のブログで「足で稼ぐカフェラテ指数」を数年にわたって書いている。データでも提示されているけれども、自分が実際に現地へ行って買った価格をその都度レポートしているもの。2005年のシンガポールに始まって、2009年の韓国まで。この記事はこれからも続けていくつもりである。だからというわけではないが、先日たまたまこんなページを見つけた。今や至る所にあって、従来の喫茶店を駆逐した(?)ともいわれるスターバックス。その調達方針を伝えるホームページである。

「倫理的な調達」と題したページには、NGOの協力により「優先サプライヤープログラム」なるものを策定し、その中で様々な施策を講じている。生産者支援であったり、社会資本投資への援助であったりといった活動の中で、私が一番注目したポイントは「品質に見合った対価による持続的な買い付け」の部分である。

日本企業が実践している、毎年でも、毎期でも、継続的なコスト削減の取り組みは、私は世界を見ても特筆すべき優れた商慣習といえる。削減したコストがなかなか自分たちのリターンに反映されないもどかしさはあるものの、世界でもこのような取り組みを当たり前に行えるのは日本だけではないかと思えるほどだ。企業に勤務するバイヤーであれば、業務サイクルに沿ってサプライヤーから引き出したコスト削減が、自らの業績のベースになる。この前提条件が崩れた場合、今よりも存在意義の薄くなることは必須であろう。

そんな中で、スターバックスは調達価格を上昇させている。その理由を「品質に見合った対価」銘打っている。なるほど、故にCSR調達が実践されているとの説明というわけだ。しかし、この謳い文句ともいえる「品質に見合った」という部分に、私はスターバックスのしたたかさと、やっぱり調達・購買は花火を打ち上げることしか存在意義がないのか、と悲しくもなる、そんな複雑な思いを抱いたのである。

まず、ホームページによれば、2002年以降であるが、

1. 市場取引価格よりも高く買っている。
2. 毎年、購入価格を上昇させている。

ことがわかる。では、2001年より前はどんな価格だったのか、というと全日本コーヒー協会のホームページに2000年以降の価格データが掲載されている。単位はUSドル/ポンドである。

グラフだと一目瞭然、倫理的と銘打ったページに掲載されていた価格の推移は、市況の底値を基準にしたものだったのである。

そして最初に注目した「品質に見合った」との部分。この言い回しを、生産コストに見合ったとしなかったところが、とってもしたたかなのだ。

コーヒー豆の市場を簡単にまとめると、次の3つになる。

1) 世界のコーヒー豆の生産者は、小規模農家が多いが、コーヒーを消費者へ届ける企業は、4大とか5大といわれるメジャーが支配している。
2) 世界的にコーヒーの消費量は減少している
3) コーヒー豆にも、低賃金を武器にした新興国(ベトナム)により、市況は下落している。(※現在ベトナムは世界第二位のコーヒー豆生産国)

じつは、もっといろいろな理由があるのであるが、シンプルにまとめると生産>需要という状態、そして焙煎して消費者に届ける企業の寡占化によって価格は長期的に低迷しているのである。「コーヒー危機 作られる貧困」という本には、コーヒー豆の価格下落に苦しみ、日々の生活にも困窮する生産者の実情が描かれている。生産者のコーヒー豆販売価格に対して、実際に消費者が購入する価格は188倍にもなっているとのデータも掲載されている。中間業者の利益や、輸送費、焙煎費用等々、消費者に届くまでには様々な費用が発生するので、この188倍という数字の是非をここで問うことはしない。重要なのは、コーヒー豆の生産者の多くは、生産コストに見合わない市場価格で売らざるを得ないという事実である。スターバックスのホームページにある「品質に見合った価格」との言葉は、確かにそうかもしれないが、生産に費やしたコストには見合っていないということを、図らずも吐露しているとも言える。

ここで私は、スターバックスの企業姿勢を云々いうつもりはない。CSR調達は、試行錯誤の段階であり、同社も今まさに悩み、もがいているのであろう。しかし、市場よりも高く購入している事実で、社会的貢献への責任を果たしている企業姿勢を消費者に訴求していることは紛れもない事実である。この一点に私は大きな違和感がある。果たして、市況より高く購入することが社会的貢献へつながるだろうか。

市場が存在する以上、市場価格で購入することについては、誰もとやかくいえる問題ではない。そして、コーヒー豆の供給構造には、スターバックスといえども変化させる影響力を持ち得ていない。ここで私が述べたい真実は、ホームページに提示されている値上げによっても、過去の市況からすれば生産者の生活支援にはほど遠い価格であるという真実である。

私は、このページのように、きっとこれからも同じような類のPRは増えてゆくのではないかという大きな危惧を持った。CSR調達という考え方や、コンプライアンスという点では異議を挟むつもりはない。一般消費者にモノ・サービスを提供する企業であれば、企業イメージも非常に重要であろう。しかし、生産者保護の実益をともなっていない購入価格の上昇が「倫理的な調達」と称されてしまうところに、なにやら調達・購買が軽んじられている、典型的で根深い問題を感じざるを得ないのである。

CSRとは、企業が社会の構成員として法令遵守を行い、人権や環境にも配慮し、消費者や従業員、地域社会などの利害関係者(ステークホルダー)に対して責任を果たすという考え方である。CSR調達とは、この考え方に沿った調達ということであろう。法令を遵守し、人権・環境に配慮することが単純にイコール値上げをするとの風潮が蔓延するとしたら、これは由々しき事態である。本来利益は獲得すべきものという事実は、規模、地域によって揺るぐことはない自明の理である。そして利益獲得と同じく重要であるCSRの実践のアクションのPR文句が「高い価格で買っています」とは、札束で販売者の頬をはたく行為に他ならない。果たして、このようなアクションがほんとうのCSR調達で、倫理的な調達という考え方に合致するのだろうか。

CSR調達の実践は、バイヤーが携わるすべてのアクションが問われているといって良い。値上げをするといった短絡的な話ではない。比較的新しい考え方のほんとうの姿とは、われわれが日々の仕事の中で考え、見いだすされた行動による試行錯誤によってしか明らかになることはない。繰り返しになるが、CSR調達はイコール値上げといった単純な構図では達成し得ないのだ。

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