・一つ目の話。コスト削減形態の変容

10万円のブランドバッグが1000円で買えたならーー。

どうも、それは現実になっているようです。

これまで、調達・購買部門がコストを下げようと思ったら、次の手段によりました。

(1)交渉すること
(2)安いサプライヤーを探すこと
(3)そもそも商品を買わないこと

もちろん、さまざまなバリエーションはありますけれど、上記の三つに集約されるものでした。BtoBではこの手法はいまだに健在です。ただ、BtoCの世界では変化が置きつつあります。

現在、インターネットを利用したeコマースが再び脚光をあびています。なかでも、「激安オク」「ユメオク」などの超・激安オークションサイトが有名になってきました。もし、お時間があるなら御覧ください。10万円以上のテレビが1万円以下になるなど、その凄さは過激です。

一部で話題になっているのは「わくわくオークション」というところ。ここは、他の類似サイトと違って女性向けのブランドバッグを扱っています。プラダやらヴィトンなど、有名ブランドが揃っています。

これらのサイトはなぜここまで安くできるのでしょうか。出品のカラクリや仕入れのカラクリは置いておいて、ビジネスモデルが肝要です。というのも、これらのサイトは、実際に商品を購入するお客からお金をとるのではなく(もちろん入札価格分はお金をとりますが)、むしろ見込み客からお金をとるモデルになっています。このサイトを見た人が「買いたい」と思えば、入札のために数十円がかかる仕組みです。もちろん、入札しても買えないかもしれません。ただ、買いたいと意思表示をするだけでお金がかかります。

「わくわくオークション」をご覧になれば、入札終了時間が延びていく様子がわかるはずです。これは日本中の誰かが入札ボタンを押したのですね。誰かが入札ボタンを押すと20秒ほど時間が延長することになっています。同時に価格も上昇していくのです。つまり、最終的な購入者のみだけではなく、買えなかった人たちからもお金をとるモデルなのですね。

これを見て「買う」プロである調達・購買部門のみなさまはどう思ったでしょうか。自分は安く買える。ただ、そのコスト削減の原資は、他の誰かが負担しているわけです。

私はここにコスト削減形態の変容を見ます。店側はもはや価格を限界まで下げてきている。これ以上、もう安くすることはできない。もし安くするとすれば、これまで想定もされていなかったところにその補填先を探すしかない。

これまでの倫理や常識からすると、これらのサイトは違和感を禁じ得ないものかもしれません。しかし、デフレやら価格破壊・価格崩壊とまでいわれていた現代は、このようなビジネスモデルを産み落とすに至ったわけです。

・二つ目の話。買う商品の変容。

ついに、村上龍さんが電子書籍に乗り出しました。「歌うクジラ」が第一作です。一部の報道では、村上龍さんが電子書籍のみで新刊を発売、とされていましたが、そうではありません。あくまでも、電子書籍版を「先行して」販売する、とのことです。しかし、同じく電子書籍版が有名になった京極夏彦さんの「死ねばいいのに」以上の驚きをもって迎えられています。

その理由は、スタッフの豪華さでした。音楽は坂本龍一さんによるものです。まさに電子書籍でしか実現できない試みが始まっています。もちろん、CDつきの本はいくらでもありましたが、電子書籍で自動的に音楽が流れだす仕掛けにはかないません。

おそらく、これから売れるものは、電子書籍「でも」読めるものではなく、電子書籍のみでしか読めないものや、電子書籍でしか実現させることのできない仕掛けをもったものではないかと思うのです。

さて、このような電子データを購入することが多くなったとき、その価格の妥当性はどのようにして認識するのでしょうか。BtoCの領域であれば、言い値で買うしかありませんね。ただし、BtoBだったらどうでしょうか。これまで調達・購買部門は、このような電子データを購入するとき(たとえばソフト調達など)、価格を「作業人数×時間」で査定する術しか持っていません。人工計算だけでコストと価格を決定していました。

もちろん、その流れはすぐには変わらないでしょうけれど、人工計算では割り切れない「アイディア」や「発想」「先進性」を購入するときに、どのような尺度で査定すればよいかは新たなテーマとなりえます。

それにしても堀江貴文さんの「拝金」は電子書籍版のみで1万5000ダウンロードを突破したそうです(出版社へ裏どりもやりました)。追加コストがかからず、売れれば売れるほど固定費が薄まっていく電子情報販売。

はたして、と私は思うのです。この電子データの適正価格とは、そもそも設定できるのかと。そして、電子情報商品を買ったあとには、かならずこうも思います。

「俺が買ったものはいったいなんだったのか」と。

・三つ目の話。買う商品の倫理崩壊。

先日、あるニュースが転送されてきました。アイドルグループ「AKBN 0」の商品についてでした。いわく、「デート1時間1万円」「一緒に写真を撮るのは3000円」だそうです。

まあ、ホームページによれば、たしかに呆れるほどの底抜けた明るさはあります。林家ペー&パー子さんが終身名誉監督とのことです。

しかし、私にはこの「デート1時間1万円」「一緒に写真を撮るのは3000円」という商品が、売春とどう違うのかがわかりません。体を売っていない、と反論はありうるでしょう。しかし、デートクラブと同じではないかと私などは思います。

資本主義はすべてを商品化してしまう、といわれました。なるほど、アイドルという名の商品も、「いつでも会えるアイドル(AKB48)」を通り越して「いつでもデートできるアイドル」になってしまったというわけです。

もうそれはアイドルなのか。そんな議論はあるでしょう。アイドルが偶像であるとすれば、「いつでも会える」とは偶像ではないと私には思えるからです。ただ、私には「デート1時間1万円」で売りだしてしまう行為に、倫理崩壊を見ます。

ある女性コンサルタントは「一日デート」で20万円だそうです。なんでも、一緒にいる男性の身だしなみや洋服のセンスを更生(笑)するとのことで、大盛況とのこと。これも形を変えた売春と何が違うのでしょうか。もちろん、そのようなビジネスモデルをよくぞ考えついた、と賛同することもできます。ただ、私にはそのような態度がとれないのです。

ほんとうに「お金で買えないものがない」現在、売り手の倫理ではなく、買い手の倫理が問われているように思われてなりません。

それにしても、1万円払ってまでアイドルとデートなんてしたいかね。「AKBN 0」のファンがいらっしゃったら、ごめんね、ですが。

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