前回は、海外調達を始めるにあたっての準備と、担当するバイヤーの持つべき特性を書きました。今回「いまさら始める海外調達」の最終回として、具体的なサプライヤーの探索方法をお知らせします。


先日、過去には世界最大のイベントとも言われた東京モーターショーが開催されました。日本のみならず海外の自動車メーカーもこぞって新型車、新技術を披露する場です。ところが今回100年に一度の不況の影響で、大幅に出展社数が減少していました。費用節減の波の影響を一番受けやすい分野といえます。それが形として現れたのが今回のモーターショーなのです。

とはいえ、首都圏地域でも数カ所ある大規模は展示施設では、いろいろな催しが企画されています。首都圏の大規模な展示会場のイベントスケジュールを掲載したHPアドレスです。

東京ビックサイト
幕張メッセ 
パシフィコ横浜 

各企業がいろいろな形で費用を捻出し、引き続き顧客への新製品、新技術、新サービスのPRをおこなっているわけです。例えば、先週も私にとって価値あるサプライヤーを見いだせるかもしれない展示会が開催され、実際に足を運びポテンシャルサプライヤーの開拓に成功しています。

私が担当している事業分野でもいろいろな形でのイベントが開催されます。最近ではサプライヤーを探して展示会へ足を運ぶと、海外のサプライヤーの出展を多く目にします。確かに国内や既に日本に足場を築いている海外サプライヤーとの比較では、展示内容に派手さはありません。しかしサプライヤーの実力とは、出展内容の派手さとはまったく関係がありません。目先の派手さに目を奪われなければ、日本国内で海外サプライヤーとの出会いの場は確実に存在することをまずお伝えしたいと思います。

そして、ジェトロのホームページにも、これから海外のサプライヤーを取引する場合に有効な情報があります。このホームページには、サプライヤーに関する情報だけでなく、一般的に海外とビジネスに関する基礎的な情報が閲覧可能なので、これから海外とのビジネスを始める場合には、かなり有効なサイトといえます。

次に、既に調達する対象製品や、サービスが決定している場合です。製品やサービスの一般的なキーワードをYahooや、Googleといった検索エンジンへ入力することで、求めるサプライヤーのホームページへたどり着くことができます。これら検索エンジンには、いろいろな特殊な検索機能が存在します。こういった機能を駆使して、お目当てのサプライヤーにたどり着くことも可能です。検索方法については、Googleの基本的な検索手法について解説がありますので、是非御自分で検索する前には、御一読することをお奨めします。

・ どこの国にするか

労働集約的な製品や、生産・加工技術を購入する場合には、上記のような手法ではお目当てのページに行き着くのは難しいかもしれません。そんな場合は、国を決めて探索するといった手法も検討すべきです。

しかし世の中には多くの国があり、いったいどの国をターゲットにすべきか、それこそ雲を掴むような疑問にぶつかります。この場合、一般論での比較で各国に優位性を見いだそうとすると、人件費の安価な国を選定してしまいます。しかし、人件費が安いと言うことは安い理由が存在します。その理由を無視して海外調達先を決定することは、海外調達に潜むリスクへ目を向けないことであり、絶対に避けなければなりません。一方で、人件費以外にその国の自社にとってのポテンシャルを計る指標など存在するのでしょうか。残念ながら、前回のマガジンでも申し上げたとおり、そのような都合の良い資料は存在しません。ただし、ポテンシャルを類推できる資料は存在します。

● 世界経済フォーラム The Global Competitiveness Report 2009-2010

世界経済フォーラムが毎年発表している世界競争力ランキングです。この資料は、以下の項目で世界各国の競争力を測定し、発表しています。測定項目にはこんなものがあります。

• ビジネスインフラ
– 法人関連法整備 – インフラストラクチャー
– マクロ経済の安定
– 健康と初等教育

• 効率性
– 高等教育およびトレーニング
– 金融市場効率
– 労働市場効率
– 金融市場洗練
– 技術的対応力
– 市場サイズ

• 革新性と洗練性
– ビジネス洗練度

これら項目をそれぞれ指数化して順位をつけています。それぞれの項目個別でも順位を参照することができます。順位だけでなく、世界各国を5つのカテゴリーにわけています。私がこれまで経験のない国のサプライヤーを開拓するときに注目するのはこのカテゴリー分けです。この分類に即すると、日本はStage3で、この分類では最上位になります。そして日本以外のアジア諸国でもStage3に分類される国が3つ存在します。Stage3の一つ下位のStage2~3というポジションには1つ、Stage2には2つのアジアの国々が存在します。ここで合計6つの国が抽出できたことになります。ただ、この六ヵ国には金融センターとしての色が強い国・地域、シンガポールと香港が含まれています。この2つの国・地域を除外する必要はないと思います。しかし金融センターであるが故に、例えば私が担当している機械部品は調達することが難しいかもしれません。そして、ここから先は実際に調達する製品・サービスを念頭に置く必要があります。一つの例として、機械部品についてお話を進めたいと思います。

先ほどご紹介した世界経済フォーラムの競争力ランキングの中に、熟練労働者に関する評価があります。その評価のみを抜き出し、ビジネス環境に関する評価を参照してみます。


世界経済フォーラムにより設定された基準によって評価をすると、日本よりも熟練労働者が存在し、尚かつビジネス環境が整備されている国が存在するのです。この評価に加えて、各国の国民一人当たりの国民所得を見てみると、製品・サービスを求める上で、近しいアジアに非常に魅力的な国が存在することに気づくはずです。

ここで、上記にて述べた評価を踏まえ、どこの国へ製品・サービスを求めるかという場合に、ターゲットになりうる国を3つお知らせしたいと思います。

これら3つの国の選定理由は、

(1)日本と同等、もしくは日本以上のリソースが有る可能性が高い

(2)日本から近い(すぐ行ける)

という非常に単純な理由です。これ以上は、欲する製品・サービスによる事情を加味する必要がありますので、先に述べたインターネットでのサプライヤー検索結果と合わせて検討を進めることが重要です。

ここで一つ、海外調達先として必ずターゲットに挙げられる中国、ベトナムを選定しなかった理由を付け加えたいと思います。

中国、ベトナムは、確かに人件費は安価です。しかし先の競争力ランキングでは、中国が昨年度Stage1~2、今年度Stage2となりました。ベトナムは依然としてStage1です。日本はもちろんのこと、先に選定した3ヵ国と比較しても、ビジネスインフラの脆弱性は明らかです。人件費が安価であっても、要求品質を実現できないサプライヤーでは海外調達をおこなう意義がありません。そのような観点から、海外調達のメリットを確保する為に敢えて選定しませんでした。

それではまったくサプライヤーがいないか、と言えばそういうことではありません。実際のビジネスでは、私自身中国のサプライヤーとも取引をおこなっていますし、ベトナムへサプライヤーを求めたときには、その品質の高さに驚愕した経験も持っています。しかし、確率的にはそのような自社にとって良好なパートナーを得られる確率は、先に示した3ヵ国よりは低くなるでしょう。中国・ベトナムをターゲットにする際は、人件費の安さの代償を見極めるバイヤーの目が非常に重要になるのです。

最後に、私がこのように海外調達にこだわり続ける理由を書きたいと思います。

今年の春、ビジネス誌に掲載されたある記事に、大いなる危機感を覚えました。日本の一流メーカーの製造した32型大画面テレビと、ある大手流通による企画品の32型大画面テレビが比較された記事です。価格には倍半分以上の差がありましたが、消費者から見た品質には 、価格ほどの差はないとの結果になっていました。

その記事には、2つの製品に存在する価格差の分析をおこなっていました。一流メーカーの製品には、専用品を使い、使用時に安定した品質を確保するための工夫が到るところにおこなわれていました。一方、大手流通の企画した製品は、汎用品を組み合わせて機能を実現させ、組立て方法にも労働集約的なちからわざといえる点が多数見受けられました。製品としては明らかに大手メーカーの製品が勝っていたのです。しかし、大手流通の企画品は完売します。一般消費者の目には一流メーカー製品の勝っている部分よりも価格が魅力的に映ったのです。

私の担当している製品では、惜しみなくコストを費やせば、あらゆる品質においてほんとうに素晴らしい製品を日本国内のメーカーから購入することが可能です。しかしバイヤーの日々の苦労は、惜しみなくコストを費やすことができない点にその原因を見いだすことができます。海外調達を推し進めることは、既存の国内サプライヤーを駆逐す ることになると言われた経験も一度ではありません。しかし安価なリソースを求め実現させることがバイヤーの使命です。品質の確保さえできれば国内メーカーにこだわっていられないのは、先に提示したテレビだけではないはずです。本来日本は資源を持たない加工貿易立国です。これまでは原材料を輸入して、製品を輸出することで成り立っていましたが、これからは安価であれば製品も輸入してとの視点を持つ必要がある、そう考えるのです。そして社内にないリソースを社外へ求めるのがバイヤーの責務であると考えるとき、そのリソースを国内に限定する必要性をまったく感じないのです。

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