これまで共同調達・共同購買について書いてきました。書いてきた内容をまとめると次の通りになります。

1. 共同調達・購買の起源を求めると、日本の高度成長の結果、大企業と中小企業で広がった格差を解消するために始まった活動へとたどり着く
2. 現在において、共同調達・共同購買で成果を得られるのは、非常に限られた条件下のみであること
3. マスコミで報道される事例の多くは「これからやります」といった宣言でしかないこと

共同調達・共同購買について新たに取り組みに関する報道は、あくまでもこれから行うという決意表明に過ぎないわけです。決意を実現させるために、いざ活動を開始します。すると、思わぬ障害の出現に、バイヤーは途方に暮れます。担当者の費やす時間に対して、ほんとうに成果が生まれるのだろうか、そんな疑念を持ちつつ行うアクションになってしまっているのです。

しかし、最近報道されたある大手企業の取り組みに、共同購買・共同調達の一つの妙案を発見しました。それは、次の通りです。

東芝とクボタ、共同輸送でコスト・CO2削減へ(2010年6月9日(水) )

この活動は、港から内陸部の倉庫への輸送と、内陸部の工場から輸出向製品の輸送を、相互に融通することで、空荷での輸送を避ける。そのことで、CO2排出量の削減と、コスト削減を狙うモノです。

取り組みの内容自体にめあたらしさは有りません。既に大きな減資の存在に気づいている人々がいます。このホームページにある通り、実際に輸送に携わっている人たちです。ホームページをご参照いただくと解りますが、空荷になる日時、積み地、降ろし地の情報が一覧化できます。荷主がホームページへアクセスして、希望する条件に合致する空荷のトラックが有れば、新たに輸送便を仕立てるよりも安価に運べるわけです。

しかし、このアクションには問題があります。スポット的に輸送を行う場合に、たまたま空車があれば、確かにお得感はあります。しかし、それはあくまでも「たまたま」であり、偶然の産物です。バイヤーは、日々「いったいどの程度コスト削減が可能なのか?」を考えています。物流担当バイヤーが丹念に先に提示したページをチェックします。しかし、偶然あるかもしれない……という淡い期待だけで、ホームページのチェックを続けることができるでしょうか。そして、各企業や工場毎の物流に関する独自のルールを、一見さんであるドライバーに理解させることも大きな手間です。そして不確定な要素が多い状態では、安定調達という観点で問題があります。

今回提示した取り組みでは、安定的に物流手段の確保について工夫の後を見ることができます。

まず、両社の拠点の地理的な条件です。従来の共同調達・共同購買では、調達・購買側でなく、営業・販売側での共通項に基づいたものでした。売っているモノが似ているから、共通項があるから、購入側で一致団結するものでした。営業・販売面では引き続き競争状態を続けながら、調達・購買面のみ、できるかどうかという実現性への考察なしに始めるわけです。しかし、今回は物流という分野に限定して、なおかつ最大のボトルネックになる地理的な条件をクリアした状態(=両社の拠点が近い)で開始されるわけです。

そして、両社が輸送するモノに共通性がないというボトルネックも、コンテナタイプを共通化することで解決しています。共同調達・共同購買での最小単位である2社なので、利害関係の調節も、3社以上複数社のあちらを立てれば、こちらが立たず……といった部分が最小限に食い止められるわけです。

今回のアクションが、従来の共同調達・共同購買と異なっている点は、次の3点となります。

1. 営業・販売面で競合しないこと
2. 共同する範囲を限定すること
3. 共同して購入するモノ・サービスが同一であること

両社のホームページを参照してみると、一方は総合重電・電器メーカーであり、一方は、農業機械、産業機械メーカーで、製作する、販売する製品に共通部分を見いだすことはできません。市場での競合関係が無い両社は、共同での活動で、同じゴールを設定しやすいわけです。そして、包括的な共同でなく、共同で行動を起こす範囲を限定していること。そもそも両社の事業分野を俯瞰して、同じ分野がないために、輸送という分野のみでのアクションへ限定されていること。最後に、調達・購買する対象が、コンテナであること。コンテナタイプを同じにすることで、両社の事業領域の違いを克服しているわけです。

そして、このアクションが示唆する共同調達・共同購買についての可能性です。

この仕組みは、できる分野(物流)に限定して、大きなボトルネックがなく(地理的に近隣である)、小さなボトルネック(コンテナサイズの違いを共通化)を共同で解決へと導いています。共同する分野が限られることで、とってもシンプルな仕組みとなっています。シンプルであるが故に、2社のベクトルが合わせやすかった。2社の船頭も取り組む内容がシンプルであるがこそ勝手なことを言う余地がなかったと考えることができます。そして、この取り組みのおもしろいところは、仕組みがシンプルであるにもかかわらず、従来の共同調達・共同購買に対して「CO2排出量の削減」というメリットが加えられていることです。これは、共同した分野によって見いだされたメリットではあります。しかし、CSR、また4月に開催されたISM総会でも取り上げられていたリスクマネジメントの一領域となるレピュテーショナル・リスクへの対応の観点からも、調達・購買部門主導での社会貢献となるのであれば、大きな期待がもてるわけです。

ここで、共同調達・購買のアクションとして、今回の例からポイントを整理してみます。

(1)営業・販売面での競合がない、もしくは限定的

この点は、むしろ多くのバイヤーにとって歓迎すべき点です。これまでの多くの取り組みが直接材で、 包括的な内容であったのに対し、今回の例では非常に限られた分野でメリットを狙う。そして可能であれば、自社の他の分野へも展開を促すことにしています。政治的な部分での調整前に多くを費やす前にメリットを得られる可能性が高いのです。

(2)コスト削減+αのメリットがある

今回の成果には、コスト削減のみならず、CO2の削減も謳われています。地球温暖化を促す二酸化炭素の削減となれば、なかなか声大きく反対を唱えることができなくなります。

(3)限定分野でのシンプルな取り組みであり、社内外の利害調整が少ない

今回のケースでは、従来別々に手配していた輸送が、一回で済むというシンプルな取り組みです。もちろん、同じ事業を営んでいるわけではないので、そこに調整が発生するのはやむを得ません。しかし、包括的な取り組みで、複数社+サプライヤーといった難解なパズルのような利害調整に比べれば、はるかに容易なはずです。

同じような取り組みの例として、パナソニックと朝日新聞の例もあります。このような取り組みが広がり、共同調達・共同購買が単なる打ち上げ花火で、注目を浴びて終わるだけでなく、しっかりとした成果を生む有益な取り組みとして捉えられ、バイヤーの新たな武器になることを祈っています。

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