今年の大河ドラマは、その主人公を演じる俳優の人気もあって、視聴率は好調だそうである。ドラマの題名にもなっているその人、坂本龍馬にはいろいろな逸話が残されているが、有名な薩長同盟について少し考えてみたい。

薩長同盟は、敵味方に分かれていた両藩を結びつけた訳だが、実は両藩を結びつけた大きな要因の一つに、坂本龍馬の優秀なバイヤー的感性があることをご存じであろうか。

坂本龍馬や同じ土佐出身の中岡慎太郎が薩長両藩に手を結ばせようと奔走していた頃、それは蛤御門の変(禁門の変)の後であり、結果長州藩は京都御所に発砲したことで「朝敵」とされ、後の幕府主導の長州征伐につながる……そんな時期であった。蛤御門の変で京都御所を守ったのが、当時守護職にあった会津藩と薩摩藩であり、薩長はまさに敵味方の関係であったわけである。

朝敵となった後の長州藩は、いずれ攻めてくる幕府へ備えていた。しかし、当時すでに欧米列強に対し、徳川幕府は開国を行い、対外的に日本の政府として認められていた。従い、幕府から朝敵と見なされた長州藩は、武力の近代化を目指そうとも、朝敵=反逆者であり、武器の調達が簡単には実現できなかったことになる。

一方の薩摩藩。蛤御門の変では結果幕府の側に立ちつつ、薩英戦争後に英国との関係改善を行い、武器の調達は可能。両藩の武器の調達力の差に着目した坂本龍馬は、薩摩を忌み嫌う長州藩を懐柔する手段として、薩摩藩の調達能力を使ったわけである。文献によっては、薩摩が武器を調達する代わりに、長州が米を薩摩へ贈ったといった事を書いている。坂本龍馬は、感情的に薩摩と相容れない長州に、実利=武器の調達力を提供することで、手を結ばせようとしたわけである。

この場合の長州藩と薩摩藩は、買えない立場と買える立場で、購買力としては圧倒的に薩摩藩の方が強い。その力を共有することで、長州藩が持つ薩摩藩への積年の恨みを乗り越え、同盟関係構築に至った訳である。実際のビジネスでは一方が一方へ自社の購買力を提供するということは、非常に実現しづらいであろう。しかし今、法人間で行われている共同購買・調達といった活動にも、この坂本龍馬的な感性は非常に重要な意味を持つのである。

共同調達・購買においては、購買力(バイイングパワー)の増大がフォーカスされる。皆で手に手を取って、安く買いましょう!というのが目的となる。しかし、一方で手に手をとった存在を、あまり良くは思わない集団も同時に存在する。バイヤーにとってなくてはならないサプライヤーだ。

新聞やマスコミで、共同調達・購買への取り組みを始めることが大きく報じられる。これまでにも述べてきたとおり、実際に共同調達・購買といった取り組みは、その実現までに大きなハードルがいくつも存在し、実現させるのは至難の業だ。それは、共同購買・調達を行うグループ内での戦略・戦術の統一にかかる調整も難しいのだが、同時にどうやって実現させるかのプロセスでは欠くことのできないサプライヤーマネジメントも難しくなる事も一因なのである。

共同調達・購買への取り組みを発表することは、サプライヤー側からすれば、自分の顧客が、束になってコスト削減を要求してくることに他ならない。仮に、共同に参加する企業の大半が自社の元々の顧客でなければ大きなビジネスチャンスかもしれない。しかし、参加する企業の多くが元々顧客であったらどうだろうか。サプライヤー側からすれば、数をまとめるというメリットそのものが存在しないことになる。

そしてマスコミで大々的に発表することは、将来的にコスト削減への大きな期待が持てるという意味では一定の意義がある。問題は、誰のための意義なのかということ、そして本来的にコスト削減とは、企業が継続して存在し続けるためには欠くことのできない取り組みである。発表による効果など一時的であり、昨今の決算発表サイクルを考えれば、短くて四半期、長くても一年で化けの皮がはがれてしまうのである。すぐに実際の、ほんとうの効果が求められる。

ここで話を薩長同盟に戻す。

実際の薩長同盟は、薩長盟約とも薩長連合とも呼ばれる。歴史学者の中には、正式な藩と藩の同盟でなく、藩の中での実力者同士の口約束、密約とまでいわれている。しかし実は、口約束、密約といった性格を持ち合わせていたからこそ、明治維新へのプロセスの中でも一つの重要なターニングポイントとなりえたのである。

これが、声高らかに広く世間一般へ知らしめられていたらどうなっていたであろうか。薩摩が長州の代わりに購入した武器も買えなかった。密約で、口約束であったからこそ、秘密裏に長州藩は迎撃の準備を進め、第二次長州征伐での勝利につながってゆくのである。

そして現在の共同購買・調達と、薩長同盟とその後を重ね合わせてみる。実態をともなうかどうかもわからない共同調達・購買の取り組みを、なぜ大々的に発表してしまうのか、という疑問が沸いてくるのである。ほんとうの共同調達・購買とは、参加企業間の調整に大きな時間と労力を要する。今、取り組み始めるという発表こそあって、結果の報告がないのは、実現していないからに他ならない。発表できるような効果を生んでいないわけだ。

ただし、いつまでも共同調達・購買への取り組みについての発表を控えたままということもできない。製品のトレーサビリティの問題やら、それこそ信頼関係・サプライヤーとの間に感情問題を巻き起こす原因となってしまう。要は、発表のタイミングの問題だ。

ことを起こすとき、人より先んじることは、ビジネスでは非常に大きなアドバンテージとなる。何事も初期の段階で話が大っぴらになることはない。特に、コスト削減といった類の内容で、取り組み開始に関する発表にイメージアップ以上のどのようなメリットが存在するだろうか。コスト削減に関する自社内取り組みの改善であれば良いが、内容にサプライヤーマネジメントが絡んでいる場合、対外的な発表は大きなデメリットに他ならない。調達・購買・資材部門が、事業継続への真の意味での貢献を行うセクションであるならば、イメージへの貢献のみならず、実利への貢献も行う必要がある。そのためには、許容されうる密約もなければ、いくらバイヤーとしての着眼点が良くとも、効果を得るのは難しいのである。

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