ある大臣の地元での「大臣就任祝賀パーティー」での発言が波紋を広げ、大臣の辞任にまで発展しています。その発言は、パーティーでの挨拶の際に発せられた、以下の内容です。

「法相とはいいですね。(国会答弁で)二つ覚えておけばいい。これで切り抜けてきました」

そして、覚えていらっしゃった二つとは次の通り。

「個別の事案についてはお答えを差し控えます」
「法と証拠に基づいて適切にやっております」

大臣就任を祝う会で発したこの発言により、大臣職を失うというなんとも皮肉な結果になったわけです。私はこの発言から、ある決め台詞をもったバイヤーを思い浮かべました。

● 勝手に設計(技術)が決めたんでしょう?

これは、私がバイヤーになって最初についた上司が良く使っていました。当時、調達・購買部門は、

・ 発注先選定権
・ 価格決定権

の2つを持っていました。しかし実際は、発注先の選定はほぼ設計部門によって行なわれていました。サプライヤーの協力によって作成された図面や仕様書には、具体的なサプライヤー名称と共に、

「××製もしくは、同等の製品」

と明記されていました。積極的に同等の製品を提供できるサプライヤーをバイヤーが探したかといえば、そんなことはしません。それどころか、図面にサプライヤー名が明記されていない図面に、設計担当者を怒るバイヤーさえ存在しました。

● サプライヤーから回答が無いんです……

この発言は、非常に多くのバイヤーから発せられます。実際にこのような状況は想定されるでしょう。納期短縮要請やコスト低減の要請に対して、サプライヤーからの回答がない。それを、会議や報告の場で、当たり前の如くサプライヤーに責任を押しつけて、堂々と回答するバイヤー。

最初の発言は、現実問題として、仕様書や図面を入手して後、バイヤーがサプライヤー選定を行なう時間が無い場合に、ある程度やむを得ない面もあります。このような状況を憂いて、解決策として開発購買といった考え方が登場しています。発注先選定権という、バイヤーの本来持つ力をバイヤー自身に取り戻すのが目的です。この発言における問題点は、バイヤー自身が、本来的にバイヤーの持つ発注先選定権を、実質的に設計・技術部門が行使していることを是認してしまっている点です。怒ってしまう場合など、そもそもバイヤーにソーシングという仕事が有ること自体を放棄しているようにも思えます。

二つ目の発言に内包する問題点。それは、バイヤーが担当しているサプライヤーについて、これまた自ら「管理できていません」と言っているのと同意となることです。妥当性のある準備期間を経た上で、回答が入手できていない場合は、サプライヤーとの良好なリレーションが構築できていない、なによりも明白な証左となります。

今回紹介した2つの発言。この発言の恐ろしいところは、この2つの言葉を使えば、バイヤーが直面する難局を乗り越えることが可能である点です。乗り越えて……はいませんね。少なくとも、直面した場面から逃れることができる。まさに、この2つを覚えておけば、国会議員の仕事の一場面である答弁対応が可能になるのと同じです。しかし、実際はなにも変わっていないし、後に回答が明らかになるようなアクションにも繋がらない。実は、バイヤーにとってこの二つの言葉はその場凌ぎに他なりません。麻薬と一緒です。

では、どうすべきなのか。

一つ目の設計・技術部門が、サプライヤーを決めてしまうケース。仕組的なアプローチでは、事前にソーシングに必要なリードタイムを設計・技術部門に提示する。そのリードタイムに、製造リードタイムをプラスした期間を含めて、仕様書・図面の作成をお願いする。実際は、短納期化の問題で、そんな期間が認められるケースは少ないかもしれません。であれば、予め不完全でもいいので、事前情報を知らせてもらえるようにする。開発購買の実践というアプローチも一方法です。

次に人間的なアプローチです。このケースでは、本来バイヤーが行なうべきサプライヤー選定業務を設計・技術部門が代行してやってくれた、とも言えます。まず「有り難うございます」との感謝の気持ちを持つ必要がありますよね。そして、発注以降のプロセス管理を、バイヤーの責務として確実に行なうのです。

二つ目のサプライヤーへの責任転嫁発言。仕組的には、報告時にサプライヤーを主語にした報告を禁じることです。サプライヤーが回答しなかった、でなく、私がサプライヤーから回答を入手できなかった、回答するようなルールを作る。そして、できなかった場合は、自分を主語にしてお詫びをするのです。

今回例示した二つの言葉を使うバイヤーって、普段どんな仕事をしているのでしょう。サプライヤー選定局面では、設計頼み。以降の発注~納入局面では、すべてサプライヤーへ責任転嫁。バイヤーの存在価値はいったいなんなのか。私は、購買ネットワーク会や、このメルマガでも「バイヤーの地位向上!」を訴えています。しかし、今回ご紹介した二つの発言から読み取れるのは、このような発言は、妥当性がありそうでない。妥当性が伴わない発言を繰り返していれば、そりゃ地位もへったくれもないですよね。故に、今の低められた地位もしょうがないということになります。

十分な検討時間も無くサプライヤーが選定できるか!フォローしているけど、サプライヤーから回答がないのはやむを得ない!そんな中で、お礼を言ったり、お詫びを申し述べたりするのは不条理!確かに正論ですね。しかし、その不条理さという御輿の上で、安穏と仕事らしきものをしている一面は確実に存在するわけです。不条理を主張する時には、不条理に甘んじている自分は、どっかに置いてきています。大抵の場合は、です。

冒頭にご紹介した今は元大臣の発言。これ、きっと代々の大臣へ、官僚の皆さんが耳打ちしてきた奥義であり、本当のことなんでしょう。一番困っているのは、この二つの発言が使えなくなったこれからの大臣であり、官僚かもしれません。官僚や、大臣はいいですよね。基本的にグローバルな競争がない。いや、実際はあるでしょう。しかし、競争の結果、たとえ敗れても、取って代わることはない。しかし、我々バイヤーの場合、敗れてしまうことが失職へと繋がる事態が、すぐそこまで来ています。便利な言葉には、やっぱりウラがある。私は今回紹介したバイヤーの使う発言には、今の日本のバイヤーの抱える問題点を、色濃く映し出していると思います。なので、決して使うまい、と心に決めています。

● 勝手に設計(技術)が決めたんでしょう?
● サプライヤーから回答が無いんです……

どちらも、そのように至った原因の半分はバイヤーにあるんです。そして、二つの文章で切り抜けられるほど、バイヤーという職は、甘くないのです。

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