昨年、日本でデビューした新人アーティストのCDセールス。1~3位を独占したのは、K-POPと呼ばれる韓国のアーティストです。工業製品だけでなく、芸能面でも韓国に席巻されるのか?!という感があります。(新人以外も含めた売上だと、日本人グループが1~10位迄を占めていますのでご安心を)なぜ、韓国人のアーティストが日本でブレイクしたのでしょうか。私は、その経緯を調べるうちに、今日本で働く日本人バイヤーが求めるべき活路へのヒントがあることに気づきました。

まず今、日本人バイヤーの置かれた状態を、次の通りとします。本有料マガジンの読者の皆さんから「そんなことないよ!」という声が聞こえてくるかもしれません。しかし、私自身がいろいろな会社に勤務するバイヤーから話を聞いた上で、日本人バイヤーの一般的なポジショニングとしている内容です。

1. 日本は今、人口が減少しており、成長著しいアジアの中にあってGDPは伸び悩んでいる

2. 日々の調達業務では、日本人バイヤーと中国、韓国のバイヤーと、能力の面で差は無い

3. 各国の自国通貨安政策により、相対的に日本円が高くなっている。日本の製造業は、より一段と生産リソースのオフショア化を進めざるをえず、調達・購買部門は、確実にオフショア化の対象となっている

昨年、日本でブレイクしたK-POPアーティストの母国である韓国は、CDの市場規模が日本の1/20程度です。これは、CDアルバムの価格が日本の約1/3となっている事も大きく影響しています。したがい、K-POPのアーティスト達は、これまで非常に少ない市場のパイを巡って、激しい競争を強いられてきたことになります。

しかし、です。K-POPアーティストにとっての市場を韓国内という見方から「近隣諸国を含める」としただけで、世界経済の成長エンジンといわれる広大なアジアのマーケットがあるわけです。ちなみに2008年データでは、全世界のCD売上のうち、日本は約22%を占め世界第二位。一方の韓国は約1%で18位です。一位はもちろんアメリカなのですが、日本は世界第二位の市場なのです。韓国と日本は、飛行機に乗ってしまえば二時間程度と非常に近い。羽田とソウルでは日帰り出張も可能ですので、K-POPアーティストにとって、日本は魅力的な市場ということになるわけです。

昨年、日本でブレイクしたK-POPのアーティスト達の、韓国でのデビューは、昨年ではありません。従い、アーティストとしては新人ではないんですね。あくまでも 日本でのデビューが昨年2010年というだけです。但し、日本でのデビューに際して、歌やダンスだけでなく、日本語や英語といったコミュニケーションに必要な言葉についても厳しいレッスンを行なっています。事実、日本のテレビ番組へ出演しても、流暢な日本語で対応しています。

K-POPのアーティスト達を、日本を含めた海外市場で売るための戦略には、他にも昨年年頭に話題となったフリーの考え方だったり、新興国を席巻している韓国製品の広告塔としたり、音楽というコンテンツビジネスを国として成長産業と位置づけ、後押ししたりすることが複合的に功を奏しています。そういった戦略と、アーティスト本人達の市場に適合するための努力によって、昨年の日本のような成功を得ているわけです。

そして、日本で失敗しつつあるバイヤー。K-POPのアーティスト達から何を学べば良いのでしょうか。

一つ目は、自分達の目の前にある市場を、正しく掌握しているかどうかです。

我々バイヤーも、市場に相対しています。ニッチな製品やサービスであるとしても、売り手・買い手がそれぞれ最低一社いれば、立派に市場となります。今、皆さんが相対している市場とはどんなものでしょうか。そして、実際に購買対象に関する世の中に存在する市場と、自分が認識している市場に、顕著な差は存在していないでしょうか。ある製品、サービスでも、世の中に存在するサプライヤーを、多く知れば知るほどに、バイヤーに有利な調達・購買が可能となります。逆に、世の中に存在するサプライヤー数と、バイヤーの知るサプライヤー数に大きな差(バイヤーの知るサプライヤーが少ない)がある場合、市場価格との整合性がとりづらくなります。いわゆる情報の非対称性と呼ばれるものです。具体的な例を挙げてみます。

昨年実施された調達・購買に関するアンケート結果によれば、円高をメリットとすべく、海外調達が今改めて注目されています。日本から比較的近いアジアの国々に目を向けても、人件費は日本より安価な国ばかりです。そういった国に存在するサプライヤーを、自分がモノ・サービスを購入するための市場として認識しているかどうか。労働集約的なリソースでは、日本とアジア諸国を横並びで見た場合、価格に大きな差が生まれます。実際には、品質や納期といったコスト以外の問題が、バイヤーを悩ませることにもなります。しかし、アジアの市場へ目を向けることによって、選択肢は多くなります。選択肢の多さが、より適切で妥当性のある調達・購買を可能とすることは言うまでもありません。

また、安いコストを求め、海外へ誘うその前に、日本国内のサプライヤーからほんとうに適切な価格で買えているかどうかも重要です。単純にいえば、地元にある(区でも市でも都道府県でも)サプライヤーを掌握しているかどうかです。日本国内という比較的みやすい市場で判断しているかどうかも、バイヤーによって大きな差が存在する可能性があります。この点については、円高=海外調達という短絡的な戦略を場当たり的に用いるケースに、よく見受けられるケースです。

以上二つの例は、自社とサプライヤーの存在する市場を、地元基準とするか、アジア基準とするかの違いです。どちらが良いという問題ではなく、どちらも認識、対策を練る必要があります。調達・購買する対象によっては、世界基準で市場を俯瞰することが必要です。

話は単純です。日本は人口が減少しています。しかし、それは市場を日本としているからこそ減少となるのであって、アジア基準としただけでも、人口も伸び、かつ経済も著しい発展を見せているわけです。でも、国が違えば、言葉も文化も違いますよね。それが市場を見る際の大きなハードルとなっています。そして二つ目の学びへと続きます。

二つ目は、市場の持つ違いへの適合性です。

今回お話のきっかけとしたK-POPアーティストたちは、日本のドラマにも出演するほどに日本語が達者な方ばかりです。歌にしてもドラマにしても、リスナー・視聴者への一方向ですから、もしかすると台詞や歌詞を丸暗記しただけかもしれません。しかし、その丸暗記の努力あって、日本のマーケットへ受け入れられているわけです。アーティストによっては、歌詞のイントネーションもほぼ完璧に日本語を表現している。外人が話す日本語ではないんですね。K-POPアーティストであることを意識せずにファンとなることすらあり得ると感じるくらいです。

我々バイヤーが海外サプライヤーの持つリソースの確保を目指すとき、まず問題となるのがコミュニケーション、そしてモノを買う場合には、輸送や通関でしょう。しかし、コミュニケーションは通訳が、輸送や通関にしても、代行業者は存在します。専門性を必要とする業務には、日本の手の届く場所に代行してくれるリソースは必ず存在します。重要なのは、海外サプライヤーとのビジネスへ自らを適合させてゆく覚悟と、自らに不足するリソースを補ってゆくことなのです。

実際に日本で活躍するK-POPアーティストは、たくさんのスタッフに支えられて、活動を行っています。一方、多くの日本のバイヤーは、所属企業からの金銭面、ノウハウに関するサポートは少ないか、ほぼ無いのが実情でしょう。今回お話したことを実行するためには、沢山の困難に見舞われるはずです。しかし・・・・・・特に、大手企業のバイヤーにとって、さらに困難さが拡大する兆しが見えてきています。

「海外販路ナビゲータ」をご存知ですか。これは平成22年度より始まった中小企業への支援事業です。海外顧客を販売先とするために、中小企業に不足しているリソースを補うことが目的とされています。まだ始まったばかりの活動なので、具体的な成果は微々たるものでしょう。しかし、日本企業の下請けから、グローバルなサポートインダストリーとしての変化の兆しといえる具体的な活動であることに間違いはありません。

様々な側面でリソース不足がいわれる中小企業でさえ、公的な外力を活用して海外マーケットへと活路を見出そうとする今、バイヤーはどうしたら良いのでしょうか。決して、目の前の市場を矮小化することなく、できるだけ広く大きく市場を捉えてこそ、適性で妥当性を兼ね備えた調達・購買が実現できるはずです。海外販路ナビゲータにしても、日本のバイヤー企業の魅力が減少してきた証拠に他ならないのです。もう日本にバイヤーが生き残れない時代がすぐそこまで来ています。そして、生き残れるかどうかは、皆さん次第、バイヤー次第なのです。


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