2010年の年末、香港に行き、現地の料理を食べる。珍しく、満腹になる食事。最高気温18度は、歩く私を汗ばませる。1年ぶりの光景は、変わらないままだ。

青島麦酒と紹興酒を体中に充満させながら、2010年の私の非礼と至らなさを思い出すと、胸が締めつけられる。この紙面上をお借りして、私がご迷惑をおかけした人びとに心からお詫び申し上げたい。

ばたばたしながら飛び乗った香港行きの飛行機。
ふらり入った女人街横のレストラン。英語も日本語もほとんど通じないウエイトレスが持ってきた中国酒。それが奇妙なほど私を惹きつけた。「これうまいね」と通じもしない日本語を私が伝え、ウエイトレスが中国酒をもう一本持ってくる。なぜ、彼女は私の好みを知っていたのだろうか。そういえば、あの中国酒の名前は何だったのだろうか。

彼女を含め、2010年の登場人物全員に感謝申し上げたい。

わずか4年前、私は神戸の片隅で絶望的な年末を過ごしていたのではなかったか。もうあれから、4年も経ってしまった……。あのとき頻繁に連絡を取り合っていた彼も、彼女も、もういない。なかには、鬼籍に入ってしまった人もいる。その当時受けた恩やご好意に、まだお返しできないままだ。久闊を叙するべき知人たちにも、どうすればよいのかわからないまま、自分の多忙にかまけて、ずるずると日にちだけを重ねてきた。

考えてみるに、私にとっての2010年は「とにかく発信した」年だった。テレビからはじまり、雑誌も新聞も、ネットもラジオも……。どんなメディアであっても、断ることはなかった。残念ながらスケジュールがあわなかったこともあったものの、スケジュールがあえば、すべてお引き受けした。

そして、そのような露出を、ある意味で宣伝材料にしようとしていたことは否めない。

その背景には一つの拙著がある。「1円家電のカラクリ0円iPhoneの正体」では、「逆転経済」というキーワードで、労働者の危機をこれまでとまったく違った観点から読み解いておいた。しかも、それは調達・購買・資材部門の危機でもあった。テレビや雑誌などで、皮相的なコメントを繰り返したとしても、その先でこのような主張を聞いてもらいたい。餌巻きとしてのメディアがあり、そこから書籍に連れていこうとしたものだった。

ところが、「1円家電のカラクリ0円iPhoneの正体」では意外な反応が寄せられた。下請法の解釈が間違いだという。あるいは、リベートの勘定科目が違うのではないかという。前者について、そもそも私は下請法に触れていない。後者について、私はリベートの勘定科目について述べていない。このような「?」な反応があったいっぽうで、過剰な賛同も寄せられた。岡田斗司夫さんや山田真哉さんが新聞紙上で取り上げてくれたり、なかには会社じゅうで勧めてくれたりする人もいた。

残念ながら、調達・購買・資材担当者は、私が述べた「激変」を感じていただける人はいなかった。しかし、周辺領域の目利きたちは、その「激変」を理解いただけたようだ。私は昨年、「LCB(low cost buyer)」の時代が来ると述べた。間接業務の「LCE(low cost employee)」が進むなか、調達・購買業務だけが例外ではない。ただ、その状況について理解している人は、おそろしく少ない。

今年2011年、製造業を中心とする日本企業は最大の危機を迎えるだろう。
見た目の景気回復では隠せない真の問題が露呈するはずだ。
すでに、激しい波はわれわれに押し寄せてきている。

これまでの業務は崩壊しつつあり、どうしても業務改革を余儀なくされる。現代の若者は将来に希望を持てないとよくいわれる。それについて若者を批判するのはたやすい。しかし、これは構造的問題である。会社には役立たない先輩が定年を待っている。その後、ツケを払うのは自分たちだろう、という絶望感。

この状況をいかに変えていくか。それが最大の課題のはずだ。ただ、その一方で、今日も変われない多数の「お偉い方」がいる。彼らは叫ぶ。なんたらマネジメンとか、なんたらソーシングとかの重要性を。しかし、そのほとんどに本気が感じられない。

薄っぺらな年頭所感でお茶を濁している場合だろうか。数百年に一度の大転換が起きようとしている時代なのである。根本的に自分の仕事を見なおすことなしに、どうやって来るべき社会に対応できるだろう。

そこで、ここから、私の宣言を述べておこう。

いま、引き受けている仕事以外は、出来るかぎりお断りすることとする。私がいってしまうのは厚かましいと知りながら、お引き受けする仕事は
(1)これまで経験のないもの
(2)将来につながるもの
(3)社会に異論と反論を引き起こすもの
としたい。人生は有限であるから、これくらいの我儘はお許しいただければ幸甚だ。

いや、もっと正直に言おう。私が可能な仕事量を超えている感がある。私がこれまで蓄積してきた情報やスキルも、もう出尽くしている。現在の私は、出がらしの「一個人」にすぎないのだ。そのような人間が、社会の日々のニュースについて解説するのは、受け手にとって失礼なことだろう。

2011年ーー。
再び、私が精一杯の努力を必要とする時期がやってきたようだ。私はいつでもどこでも生きていく覚悟はできている。もし今の仕事で失敗しても、地方の一(いち)バイヤーから再出発することはできるだろう。ただそのような覚悟ができているといっても、日々のなかでマスメディアで必要とされることばかりに目を向けてしまえば、調達・購買・資材という、私の本来の仕事を見失うことになる。

私は、2010年の自分自身の仕事に不満がある。もっと多くの情報を、的確に伝えることができたはずだ。また、私は、調達・購買業務研究家であり、調達・購買の実務家であり、けっしてコメンテーターではないはずだった。それなのに、自省的にいうのであれば、2010年の後半は、その本来の仕事を見失い、思惟不足のなかでアウトプットを続けていた。

残念な姿。それが、ほんとうの2010年の私だった。

物事を根源的に考え行動し、将来につながる仕事を中心に、丁寧に一つひとつを引き受けていく。そうすれば、2010年のようなお粗末な内容のコメントも回避できるだろう。

人間は、常に反省と恥によって改善を重ねねばならない。それは他者に言うのはたやすい。ただ、自分で実践するのは難しい。しかし、それをやらねばならない。それが、私の新年の決意である。

2011年元旦

坂口孝則 拝


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