中国は意外にも日本と競争してはいない。日本の競合国は韓国である。そのようなことをデータから紹介した。

そこで、今回は海外調達に話を進める前に、契約書について語っていきたい。海外調達で話題となるのは海外サプライヤーといかに契約書を結ぶかだ。しかし、日本人バイヤーは契約書の類に弱い。まるで、バイヤーは「契約書のことなど関知せず、法務部門に任せればいい」と思われているかのようだ。

しかし、サプライヤー窓口であるはずのバイヤーが契約書を知らなくても良いはずはないし、他部門に丸投げするのは、正しい態度ではない。そこで、契約について述べていくのは意義があることのように思われる。

ただし、契約書論を語るとつまらない。我々は専門家ではない。あくまで実務で有効な知識を得て、それを実践のなかでブラッシュアップしていけばいい。

ところで、いきなり英語の契約書を解説するのもハードルが急に高くなる。そこで、まずは日本語で契約書の要点を述べることからはじめたい。

・契約書戦略と契約書の基礎知識

契約書戦略については、「調達・購買<戦略決定>入門」で四宮先生が書いているけれど、ぼくは通常語られないところから解説をはじめる。

1.「なぜ契約書に署名をするのか、押印をするのか」

いきなり、契約書の署名だ。そんなこと知っているよ、と思われるだろう。社長印(社長サイン)、あるいは部長印(部長サイン)を最後に記することくらい、どんなバイヤーだってわかっているからだ。

では、なぜ署名・押印するのか、と改めて訊いてみたい。

それは、「はいはい、部下が作った契約書を確認したよ」という意味ではない。署名・押印の意味は、「第三者でも誰でもない、作成名義人の意思によって契約書が作成された」ことを証明することにある。

万が一、契約者間で訴訟になったときは、裁判所に契約書が提出される。そのとき、契約書が法的拘束力をもつかどうかは、この署名・押印がキーとなる。民事訴訟法では、そう規定されている。

署名・押印は「はいよ、確認したぜよ(何弁だこれは)」という程度の意味ではない。

2.「覚書や念書は、契約書の下位文章ではない」

よく、「契約書ではなく、覚書や念書にしてくれないか」とサプライヤーに持ちかけている人がいる。しかし、それにあまり意味はない。

というのも、形式が覚書や念書であっても、当事者間の合意内容を書面化したという点は変わらない。法的効果も変わらない。表題に大きな意味はなく、慣習的な違いでしかない。

ここで注意すべきは、覚書や念書だからといって、特定部門までを記載する場合だ。たとえば、契約主体を「××株式会社」ではなく「××株式会社 購買部」とするケースがある。本人たちからすると、契約書ではなく覚書や念書なので、部門で責任を持てばいいや、と思っているかもしれない。

ただし、法的効果が帰属するのは法人単位だ。部門じゃない。それに大企業であれば、部門改変が生じることもある。担当部門のみで責任を負うのは、実際むずかしい。

3.「とはいえ、覚書や念書や契約書に押印したからといって油断できない」

私はかつて驚いてしまったのだが、法律の専門家からいわせると、少なからぬ確率で「契約書の捺印は信頼できない」ものらしい。なぜか。

それは、契約書にサインされたものと、商業登記簿上の代表者名が異なることがあるという。また、代表印は法務局において登録されたものと一致せねばならないが、それも異なることがあるという。

以前、私は上司に「サプライヤーの登記簿を取り寄せたいので金が要る」といったところ、その主張自体が理解されなかった。登記簿を確認しているバイヤー企業は、はたしてどれくらいあるだろうか。

ちなみに、私は個人で入手した(勉強のためである)。代表的なものは、「登記情報提供サービス」を使えば480円で入手できる。なお、法務局に出向けば、1000円がかかる。

また、驚くべきことに、信用調査会社が、各企業の登記簿の住所に行ってみると、空き地だったりまったく違う企業だったりすることも多々あるという。

さらに、さらに。

国際取引の場合で、かつ大型案件の際は、その当該取引を結ぶことが取締役会で承認されたかを確認する必要がある。というのも、(通常の売買取引であれば問題はないものの)それが会社個人の勝手な思い込みで契約してしまったと証明されれば、万が一の求償のときに支障が出る。

・契約書について語るときに僕の語ること

これまで調達・購買部門に向けた契約書戦略はほとんど見当たらなかった。おそらく、それは調達・購買部門のもつ契約書軽視思想が反映されていた、と私は思う。

そこで、まず私流に契約書について重要だと思うことと、落とし穴について述べてみた。

バイヤーは法律家でもないし、法務部員でもない。重要点をおさえて、そこから実務に展開していけばいい。また、契約書の知識はさまざまなところに応用が可能だ。契約書を知っているバイヤーと、契約書などまったく知らないバイヤーのどちらが市場価値が高いかは明白だろう。

そして海外調達から契約書の話に展開していった私の連載は、さらに違うところに侵食しだしていく。

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