・初笑いは「スカスカのおせち料理」

思わぬ初笑いがやってきました。スカスカのおせち料理のことです。ご存じの方も多いでしょうから、事件については概要だけお話しします。

割引サイトである「グルーポン」を通じて、高級おせちが販売されました。もともと、21,000円だったおせち料理を500人の方に10,500円で販売するというのです。すぐさまお客が殺到し、購入者は年末を待つことになりました。すると、購入者が驚いたのは、写真と実物のギャップだったのですね。

いつリンクが切れるかわかりませんので、参考URLをご紹介することはしません。ただ、GoogleでもYahoo!でも良いですから「バードカフェ」と検索なさってみてください。多くのサイトに比較写真があります。たしかに21,000円が10,500円になったとはいえ、あまりにも酷い違いです。

どう思われましたか?

実は、先日(毎日放送「せやねん!」)この事件を解説してほしい、という依頼がありました。前回のメルマガで書いたとおり、私はできるだけ「ニュースのコメンテーター」はしたくないという立場です。ただし、この仕事はこれまでの私の仕事の枠を超えることが予想されるため、「私の仮説ですが」という前置きつきで引き受けることにしました。

私が考えたのは、次のとおりです。

1.そもそも、これほど単純な「詐欺」を計画していたとは考えにくい
2.不祥事を起こした社長は、飲食業界でずっと活躍してきた人であり、お客を騙そうとする姿勢では、これまでも営業を続けることはできなかっただろう
3.社会問題化したあとに、「現金払い戻し」および「5,000円分の金券を送付」したことからも、単純な詐欺とは異なると思われる

そこで、食品業界の仕入れの立場から、次のような解説を施しました。

1.おせち料理(4人前)は、9マス×3段=27マスの食材が詰まっている。高級おせちは、1マス=300円くらいの原価。よってだいたい9,000円くらいの原価になる。この中には調理費も、人件費も入っていない。これを10,500円で販売しようとしていたわけだから、まったく儲けが出ない。

2.おそらく社長は、写真のとおりの「高級おせち」をもともと計画していなかったのではないか。ただし、実際に送ってしまったレベルの「ひどいおせち」を計画していたとも思えない。「中級おせち」くらいを想定して、1マス=100円くらいの原価計算をしていたのでは。

3.しかし、社長には思わぬ状況変化が起きた。それは、「年末におせちの食材が高騰する」という変化だ。エビやカニ、魚介類は3、4倍になってしまうことが珍しくない。秋口に原価計算して「これはいける」と考えても、年末は大幅に原価が狂ってしまった。だから、「中級おせち」程度も実現できずに、「低級おせち」にしようと思っても、「高級おせち」レベルの原価になってしまったのでは。

それがゆえに、バイトも雇うことができずに、社長自らが箱詰め作業をやって、それであんなめちゃくちゃな「高級」おせち料理になってしまったのではないか、と。

・「スカスカのおせち料理」の説明について

私の解説をお読みになって、みなさんはどう思われたでしょうか。繰り返しますが、これは私の仮説です。ほんとうの事情を知る人が誰もいない(当事者のみ)状況であるときに、何らかの解説を施すことの困難さを痛感しました。

「私はこう思うし、食材調達から見ても、おそらく正しいのではないか」というスタンスで説明したものの、私の解説が批判を免れるものであるかはわかりません。実は、この文章も、自省しながら書いているのです。

もちろん、結果責任としてバードカフェは「悪い」としかいいようがありません。私もそう思います。ただし、そこに至るには苦渋の決断があったのではないか、といいたかったわけです。でも、これって聞く側としては、バードカフェを擁護しているようにも聞こえますよね。

結果、テレビ局には「アイツ(私のことです)は何を言っているんだ」がお一人、「その通りだ、よく言ってくれた」がお二人でした。まだ批判者数としては少なかったといえるでしょう。

かつて私は、「詐欺かどうかは法律で規定されている」と、強い口調で批判されたことがあります。「営業と詐欺のあいだ」という本を書いたときです。しかし、それほど「詐欺」かどうかを決めるのは容易ではありません。刑事裁判の例を見てください。売り手が、当初段階より「お客を騙そうとしていたのか」を立証することはきわめて難しく、実際には警察が詐欺罪であることはたやすく証明できません(弁護士の人いわく「警察では証明できないから、基本的には民事裁判でやってくれと言う」のだそうです)。どこからが詐欺なのかは、グレーなわけです。

しかし、それにしてもこの手の解説はあやうさが伴います。事件とは、さまざまな要因が絡みあって導かれているものです。一つや二つの理由を取り上げたって、それは原因の一部でしかありません。でも、テレビやメディアでは、一つの理由のみがすべてを左右したかのような言い方をせねばならないのですよね。

どうすればよかったのでしょうか。

まだ私にはわかりません。

少なくとも、適当なことを言っていそうなコメンテーターのなかにも、私のような苦悩と自問を繰り返している人間がいることはお伝えできればと思ったまでです。良質な情報を提供できるように、日々努めます、とここに宣言します。

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