ある国で起こっている現在進行形の問題を、私は以下の通りと認識しています。

● ある地域に著しく偏って多く存在する同盟国の軍事基地のある部分について、ある国家のトップが他の地域へ移設すると発言

● 移設先の選定に難航し、やっと見いだした移設先の地域の市民からも反対の意思表明があり、行政のトップも反対を言明

● ある国家の発言した、移転先を決定するという期限である5月末が刻々と近づいている

新聞やラジオでのニュース報道を聴いていると、報道文の中でも用いられていましたが、まさに四面楚歌という中国の古典である『史記』の故事の状況が思い起こされます。『史記』と異なるのは、ある国の最高指導者が自分が置かれた状況を、歌が聞こえて悟るのでなく、明確に反対意思を表明されて理解するという点。そして、状況は混沌としてしまっています。いったいどのような解決が待ち受けているのか、まったく判断のつかない状態といえます。

私は一連のニュースを聴き、そして読みながら、交渉という観点で考えるとき、次の問題意識を持つに至っています。

(1)誰が意志決定者なのか

(2)誰が交渉の当事者なのか

今回の問題は、ある国の領土に、同盟国が軍事基地を持っている。基地がある地域の、基地の存在によって発生する「負担」を軽減するための、移転先選定を巡る攻防と理解しています。「攻防」と表現しましたが、誰が攻めて、誰が防いでいるのでしょうか。
問題の根幹には、国家間の同盟関係があります。ということは、意志決定者は国レベルということになります。同盟国の基地を受け入れている側から、基地のある地域の負担を軽減したいので、別の場所へ移設してほしいんです……という交渉を、基地を設置している主体の国へ申し入れて、受入れなければなりません。当然、その交渉を行う際には、現状に対する代案としての候補地を提示する必要があります。これは交渉の言い出しっぺの持つ責任ですね。

現在問題となっているのは、移設先候補地の選定に際して、移転候補先から激しい反対の意思表示を受けていることです。従い、同盟国間での交渉の前段階の、内輪揉めの段階といえます。

そして、そもそもなんでこのような事態に陥ったのか、を考えてみます。すると、ある国の国民にしてみればほんとうに残念な話ですが、まったく実現の当てがなく(そうとしか思えない)「最低でも県外移設」という最高指導者の発言へと行き着いてしまいます。ここで、今回の問題から交渉という観点で学ぶ第一点は、交渉によって導かなければならない妥協点の実現性の担保です。

実際に日々、価格であり納期であり品質といったあらゆることを交渉しているバイヤーでも、交渉相手と合意に至る過程で、実現性が危ういけど、内容としては受け入れもやむを得ないような状況になることは多いです。その場合、絶対に実現させる!という固い決意も重要ですが、冷静な実現性の判断抜きに、気合いや勢いで合意することは、もっとも避けなければならない、バイヤーとしておこなってはならない交渉です。私の経験論ですが、このような事態を避けるための手段も、さほど難しくない話です。

「とりあえず、社内に確認した上で、再度相談させてもらえますか」

こういえばいいのです。会社を代表する交渉の主体者として、決定できない状況は、相手から見れば交渉の主体者としての価値を下げることになります。しかし、実現性の担保を持たずして受入れて、後に話をひっくり返すとの事態を引き起こすことで失う信頼と、決定を保留することで、一時的に失われる信頼とを比較すれば、どのような意思決定をおこなうべきなのかは一目瞭然です。

バイヤーとしてサプライヤーと交渉に臨む際に、社内のある部門に偏っていた負担を、サプライヤーとの交渉で軽減したいと発言する。すると、その社内向けの発言に対して、別のセクションから否定的な見解が出される。バイヤーとしては、早急にサプライヤーと交渉したいにも関わらず、社内調整で紛糾してしまう……。仮に、このような状態に陥ったとします。ここでバイヤーが行うべき対応は、厳しい情報管理です。社内的な紛糾は、サプライヤーには絶対に見せてはならない失態です。今回の例では、マスコミが我先にと報道し、一国の最高指導者に対し「発言が場当たりではないか」といった質問まで行ってしまう。もしも、同じような事態が、自らの身の上に起こったら……と考えると、空恐ろしくなります。自らバイヤーとして行った発言を、関連部門から否定され、なおかつそのことがサプライヤーに伝わってしまうわけです。その部分だけにこだわるわけにもいきませんが、メンツも信頼もあったものではないですね。これは、立場を逆にすれば、問題点は一層際だって明らかになります。

バイヤーとして、サプライヤーの営業担当者からコスト削減を明言され、合意に至ったとする。その後サプライヤーの例えば製造関係者だったり、設計担当者だったりから明確にコスト削減に関して否定的な発言を聞かされる。徐々にサプライヤー側の社内がばらばらである姿が明らかになってゆく……

ここで読者のみなさんに思いを巡らせていただきいのです。そんな、社内的にばらばらのサプライヤーをどのように評価しますか。自社の将来を担うような重要な製品・サービスの一部分を、その内紛を起こしているようなサプライヤーに委ねますか。コスト削減を明言した営業担当者へ信頼感を持ち続けることができますか。

ふただび、今回の問題を紐解いていきましょう。今回の問題は、元々は前の政権によって同盟国との間で合意事項となっていました。既に解決済みであったにもかかわらず、政権が代わって、新しい政権のトップが実現の可能性について未確認のまま、合意事項をひっくり返したのです。

交渉という観点から見た場合、ほんとうに残念ではありますが、今回の交渉について、国の最高指導者が勝ちうる要素は何一つないような暗澹たる気持ちになってきます。ここで一国の最高指導者を「交渉の基本が解っていないおぼっちゃまだ!」けなすだけでは、この有料マガジンの価値がありません。そして、バイヤーとして自分の意志とは別にこのような忌々しい事態に陥らないとも限りません。なので、ここでは茨の道ともいえる解決への道程を示してみます。キーワードは、今回の記事でも再三使用している「そもそも」です。

私は、比較的規模の大きな企業でのバイヤー経験もあります。いろいろな調整後との中で、とんでもなく混沌とした状況に陥ってしまった経験をもっています。そんなときは、調整の場で勇気をもってこう発言してきました。

「これって、そもそも何が問題なんでしたっけ?」

例えば、一連の問題の起点となる負担軽減、最低でも県外移設との発言です。そもそも負担とはなんでしょう。負担を強いられているとする地域の首長を決める選挙でも、同盟国の基地の容認派と反対派の差は非常に僅差となっています。今回の一連の報道で、とても印象に残っている少女の発言があります。自分の親が基地で働いているので、賛成・反対を言えない、というものです。とても正直で、非常に誠実な回答です。今回の問題の本質は、非常に微妙な問題です。基地をなくすのではない。移設です。同盟国との合意している基本的な枠組みはそのままに、存在するとされる負担を今の地域から別の地域へ移すとの話です。

少女の発言には、負担のもう一方の側面を明確に示しています。基地が存在することで得られているメリットです。基地の存続に必要な労働力を、地元が担っているという現実です。

交渉とは、メリットのぶんどり合戦であり、デメリットの押し付け合いです。交渉の一方に著しい優位性が存在し、メリット・デメリットが偏在する結果は、交渉ではなく、恫喝の結果です。今回は、航空機やヘリコプターの基地が存在することで生まれる安全性であったり、新たな基地を建設することで失われる自然環境であったりが負担として語られています。一連の報道の中で、基地を県外へ移設することで失われる雇用への言及を目にすることはありません。繰り返しますが、基地が存在する地域の、基地の容認派、と反対派の勢力図は、首長の選挙結果を見る限りにおいては僅差です。負担を問題視するのであれば、もう一方に必ず存在するメリットも併せて考えなければ、正しい方向性を見いだすことができないのです。

交渉へ至る過程において、自らの主張に固執するあまり、自説の妥当性ばかりに目がゆき、議論が高じて感情的になってしまう、そんな思い出したくない経験が、私にはあります。そんな、穴があったら入りたくなるような恥ずかしい自分を繰り返さないために、私は普段から

「そもそも、この問題ってどういう問題だっけ?」

を自らに問いかける機会を、多く持つようにしています。今回のテーマについて、私が考えるそもそも~には、次のような内容があります。

● そもそも、負担とメリットはどのように存在しているのか

● そもそも、基地の設置に一国の最高指導者が、地方行政の首長に許可を求める必要があるのか

● そもそも、基地の設置は、どのようなルールに沿って行われるのか

● そもそも、一連の動きはそのルールに沿っているのか

● そもそも、ある国の行く末を考えるとき、同盟国の基地が国内に存在することをどのように考えるのか

決定する過程において、いろいろな意見が錯綜して混乱してしまった場合、私は原点に返ってそもそも論を展開します。今回の問題しかり、バイヤーが直面する問題しかり、自分だけの問題ではないのです。問題が複雑であれば有るほどに、利害関係者が多く存在します。まずは、そもそも当事者とは誰なのか、そしてそれぞれの出張を整理する。交渉事とは、利害関係者すべてに満面の笑みで受入れられる結論など、そもそも存在しません。満足はしないけど、不本意ながらもやむを得ないという結論を導くのは、直接出向いて行われる説得でなく、メリット、デメリットについて尽くされた議論と決断に他ならない、一介のバイヤーである私は、日々の交渉をそんなことを考えながらおこなっています。

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