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  • 第三回 ボイスオブサプライヤー~ボイスオブサプライヤー結果への対応策(牧野直哉)

「ちょっとお話があるのですが……」

こんな風にして相談を持ちかけられた場合、 どのように対処すべきなのでしょう。

悩みを持っている人が自分の悩みを話す、 それだけで悩みのかなりの部分が解決されてしまう…… 相談者と聞き手の両面で、 そんな経験をお持ちの方もおられるはずです。 相談を持ちかけられる側として難しいのは、 相談者のニーズについての判断です。 ただ話に耳を傾ければ良いのか、 それとも具体的な解決策を指し示せばいいのか。 相談を受けているのに、なにやら険悪なムードで終わってしまう、 そんな状況は避けなければなりません。

ボイスオブサプライヤーとは、 サプライヤー側の悩みに耳を傾けるアクションとも言えます。 そして悩みの原因の最低半分は自分たちにある状態でヒアリングを おこないます。一般的な悩みの相談と異なる点は、 話を聞く側が必ず当事者であることです。 この当事者であるが故に、話を聞く側は、 第三者的発言は避けなければならないし、 聞くだけで終わらせることは慎まなければなりません。 聞けた話の中には、耳の痛い話もあるかもしれませんし、 良好な関係にあることを実感できる、 本音の感謝の念を感じることができるかもしれません。しかし、 そんな一時の感想で一喜一憂することなく、 具体的なアクションを講じていくことが重要です。 ボイスオブサプライヤーは、 話を聞くことができた瞬間からが正念場になります。

サプライヤーの声を聞いた後に重要なこと、 それはどんなことでもいいです、 サプライヤーの話を聞いてすぐにアクションを起こして、 具体的な成果をサプライヤーに見せることです。 これは話を聞かせてもらったお礼の際に、 その改善のアクションを知らせることがベストです。 ボイスオブサプライヤーに携わったサプライヤー側の関係者すべて に、改善した事実を周知することが重要です。 自分たちの言ったことが聞き入れられ、改善へつながった。 そうサプライヤーの関係者に感じてもらうことが、 このボイスオブサプライヤーのアクションを完成させる第一歩にな るのです。

冒頭にも書いていますが、話をした、 話を聞いてもらったという事実だけでもサプライヤーの側に「 気がすんだ」感が必ずあります。これも一つの効果です。 しかし話をした内容に具体的に改善可能な問題が含まれており、 その後何のアクションもとられない場合、 その効き目は一時的なものになります。 問題が解決されずに放置された場合、 常にその問題は再発の危機にさらされています。実際に再発して「 またかよ」とサプライヤー側の当事者に思われてしまうことが、 ボイスオブサプライヤーの話を聞くことで得られていた効果を、 また原点へ、そして話をしたのになんの変化もないじゃないか、 といったマイナスの状態へと追いやってしまうのです。 したがって、何らかの成果をすぐに示すことで、 ボイスオブサプライヤーの効果を実感してもらうことが最初に必要 なのです。

そんなに簡単じゃない、と思われるかもしれません。 組織で仕事を進めている場合には、当事者が多く、 ボイスオブサプライヤーをおこなった人の一存では、 なかなか解決策を決められないこともあります。しかし、 そこで諦めることなく、 聴取して得られた内容を読み返してみましょう。 何度も見直すのです。 然程難しくない問題提起がおこなわれているはずです。 ボイスオブサプライヤー実施方法で、 担当バイヤー以外がおこなった方が良いと説明しましたが、 結果の対応には担当バイヤーの意見も不可欠です。 ヒアリングで得られた内容は、関係者に広く公開して、 衆知を得る工夫も必要です。そして、 何か一つでもすぐに問題を見出し、解決し、 その事をサプライヤーへ示すことが重要なのです。

私がすぐにおこなったアクションには、 具体的にこのような内容があります。

(1)担当窓口の明確化

あるケースを提示され、 問い合わせ先がよくわからないといった話がありました。 具体的な対応窓口をすぐに回答し、 その後コミュニケーションチャンネル一覧として、 問い合わせ窓口の一覧表を全サプライヤーへあらためて送付するア クションへつながりました。一見、なんでもないアクションで、 本来であればサプライヤーの一次的な窓口はバイヤーがおこなうべ きですが、こわもてのバイヤーが担当の場合は、 このような話が往々にしてあります。 このような他愛のない話にも、真摯に謙虚に対応することが、 ボイスオブサプライヤー成功への第一歩なのです。

(2)事業説明会の開催時期の変更

従来、年度初頭におこなっていました。しかし、 従来の開催時期では翌年の計画が決まってしまった後で、 前年度末に開催できないか、 といった要望が複数のサプライヤーより寄せられました。 自社のマネジメントサイクルから判断しても、 具体的な方針が決まりきっていない年度末の開催は困難ではないか 、との意見も出されましたが、開催の趣旨を少し変更することで、 時期を変更し、 実際にサプライヤーの要望の時期に開催にこぎつけたのです。

開催趣旨の変更とは、自社の決まった方針を伝える内容から、 将来的な方針が確定していないことを前提に方針を開示して、 意見交換を行う内容への変更です。 一方向の情報公開から双方向の情報交換へ変更したのです。 双方向という部分で、 これはボイスオブサプライヤーの発展系ともいえますが、 この場で非常に興味深い意見交換がおこなわれたケースもあります 。このアクションは、現在も継続しておこなわれており、 一定の成果をあげ続けています。

(3)そもそも無理な要求の存在

納期遅れの原因に話が及んだ際に「 そもそも要求に応えられるだけの生産能力がない」といった、 お粗末な回答を得られた事がありました。このケースでは、 そのサプライヤーに対してどの製品をどれだけの量発注することが 一番効率的なのか、をあらためて確認する契機になると共に、 社内的には同業者の生産能力再確認と、 発注ボリュームのバランス見直しをおこなうタスクフォースの立ち 上げにつながりました。 そしてこのアクションのプロセスをサプライヤーと共有することで 、アクションの進め方の微調整(発注アイテムと数量の見直し) も逐一可能になりました。

サプライヤーの皆さんから聞くことができる話に、 どんな内容が含まれているか想像もつきません。しかし上記(3) の回答などは、 バイヤーがもっとも配慮すべき最適最善な発注がおこなわれていな い事を示す顕著な例です。 過去のある時期においては適切な発注をおこなっていたのでしょう 。しかし、発注製品の変化、 発注数量の増減といったマーケットの変化への対応を怠っていた事 が、このボイスオブサプライヤーで明らかになったわけです。

そして(3)のケースでは、聴取できた内容を元に、短期的( すぐできる)対応と、 長期的対応の2つのアクションを同時におこしています。 ボイスオブサプライヤーでは、言い方を変えれば、 サプライヤーの関係者の皆さんへ好き勝手話をしてもらうことを目 指しています。聴取できた内容の中には、 すぐには解決できない難題や、 突拍子もない一方的な要求とも思える内容もあるかもしれません。 しかしそんな「困ったな」が多いほど、 ボイスオブサプライヤーというアクションがひとまず成功へ近づい ているといっても過言ではありません。 困ったなと思う内容が多いほど、 サプライヤーが本音を語ってくれた証しになるのです。 すぐにはできないこと、自社のみでは解決できないこと、 そんな問題提示をおこなったのは、他でもないサプライヤーです。 ここぞとばかりに、協力を得る絶好の機会といえます。

もう一つ、 サプライヤーの皆さんが本音を語ってくれたかどうかを判断する一 つのバロメーターが「他社と比較した場合の取引条件の違い」 です。他にも多く顧客を抱えるサプライヤーの場合、 実際の業務プロセスを事細かにヒアリングしていく中で、 ほかの顧客との比較論で回答を得られる場合があります。 ここで注目すべきは、意外な好条件の存在です。自社では、 当たり前、普通と考えられていた条件でも、 サプライヤーの皆さんにとっては案外評判が良い条件があるかもし れません。

だからといって、いきなりその条件を撤回するのは、 ボイスオブサプライヤーの進め方として避けなければなりません。 サプライヤーの側に立ってみれば、正直に話をしたことが、 巡り巡って自社の取引条件の悪化に結びついたとなれば、 二度と同じスタンスで話をしてくれることはなくなります。 正直に話をしてくれた恩を仇で返すような対応は慎まなければなり ません。


バイヤーとして確認すべきは、 サプライヤーにとっての好条件提示のために、 自社内で何か特別な動きをしていないかどうかです。 簡単に言えば、費用対効果を判断するのです。 好条件提示の為に発生しているコストと、 サプライヤーが享受しているメリットのバランスを見るのです。 自社の業務フローから判断すれば、 特別対応をおこなっていないにも関わらず、 サプライヤー側がある意味勝手に好条件と判断しているのであれば 、以降何らかのタイミングで、 サプライヤーの享受しているメリットとして提示し、 有利な取引条件の構築へ利用することが可能です。 ここで重要なのは、条件見直しを持ち出すタイミングです。 ボイスオブサプライヤー一連のアクションと切り離しておこなうこ とが不可欠です。又、あるサプライヤーにとって有利な条件とは、 他のサプライヤーにも有利である可能性が高くなります。 材料費の高騰、数量変動等、 サプライヤー側にデメリットが発生し、 その解消を求められた場合のカウンターとして使えるネタになるか もしれません。武器とは、使うべきタイミングを計り、 最大限の効果が得られる時に使用する、 これもバイヤーの腕のみせ所になります。

もう一度、ボイスオブサプライヤー後のアクションをまとめます。

①改善できることは、すぐ!に改善し、 その結果をサプライヤーの関係者へ周知する

②すぐには改善できないことも、 将来的にどのようなスケジュールで改善をおこなっていくかをサプ ライヤーに提示する。 そしてサプライヤーも巻き込んでアクションをおこなっていく

③無理難題が多いのは成功と判断して、 一つ一つ地道に改善をおこなう姿勢を見せ、実行する

この三点を確実に実行すれば、 ボイスオブサプライヤーの成果は確かなものになります。 サプライヤーを理解して、確かな成果を得るために必要なものは、 聞く耳と、問題を解決する意思、 そしてこのボイスオブサプライヤーという、 ちょっと今までと違った話を聞く方法なのです。 難しいことは何もありません。あとはやってみる、 それだけなのです。

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