先日、日本政府は北朝鮮への経済政策を1年延長すると閣議決定しました。また、岡田外務大臣は、拉致被害者家族会との面談で、北朝鮮が6カ国協議が再開された場合は、北朝鮮に拉致被害者の再調査を依頼する、と述べているようです。ブッシュ政権と異なり、オバマ政権では、北朝鮮に対して「6カ国協議に戻ってきたらご褒美をあげよう」という態度はとらず、あくまでも外務上の交渉で席につかせようとしています。日本はこの動きに同調するしかなく、岡田外務大臣のいう「拉致被害者の再調査を依頼する」ことはいつになるでしょう。

いっぽう、北朝鮮がミサイルを発射したときから、日本国内では核武装論が一段と勢力を増してきました。アメリカの核の傘の下にいるだけではダメだ、というわけです。アメリカではオバマ大統領が就任し、これまでのような親日派ではなく、むしろ興味対象が中国に向いていたことからも、右派のその危機感は高まっていきました。

通常、私のようなビジネス文章の書き手は、政治のことを語らない方が良いといわれています。ビジネスの場でも、政治と宗教の話はしてはいけませんよね。ただ、緊急論考として述べておきましょう。

まず、日本の取るべき道からお話せねばなりません。立脚点を明示化できないことには、次の論点がわからないからです。さて、日本の核武装化についての議論は、一瞬で終わらせることができます。「不可能」です。そもそも核武装化を唱える論者は、国際機関のIAEA(国際原子力機関)が、ドイツと日本の非核を目的として作られていることを知りません。日本は、ずっとIAEAに多額の「被」査察費用を払ってまで。日本は原子力を発電目的のみに使っていることを証明してきました。IAEAを前提とする国際枠組を前提とすれば、すなわち、国連を中心とする国際協力を前提とすれば、そもそも日本が核を持つことなど原理的に不可能なのです。

日本の核武装論者は、「北朝鮮等の外国が攻めてきたときに日本はどうするのだ」という感情論を全開にするだけで、具体的な手法について述べてきませんでした。ほんとうにIAEAを敵に回して(ということも原理上は不可能ですが)、さらに国連脱退をも視野に入れ、かつ国際協業も反故にして、それを論じているのでしょうか。まず、核武装などありえない、という現実的立場から私は論を進めます。

さて、次に、冷静に考えて、核保有国が「核のボタン」を押すことがあるのでしょうか? 答えはYESであり、NOでもあります。怜悧な国であれば、核を保有するだけで、そのボタンを押すことはありません。どう計算しても、ボタンを押すことによって得られる一時的利得が、使わないことでその後に得られる長期的利得を超えることはないからです。しかし、基地外が主導している国ならありえます。つまり、核の抑止力は、「普通の国」にとっては何の意味もなく、「いつ核のボタンを押すかわからない、基地外がトップの国」にとってのみ、核を持つ実質的なメリットがあるというわけです。その意味で、北朝鮮の外交はことごとく成功しています。日本は「まとも」な国でしょうから、核をもし保有したとしても、その抑止力を享受できることはありません。

しかし、やっかいなのは、その北朝鮮を「誰も潰れてほしくない」と思っていることです。逆ではありません。「北朝鮮に潰れてほしくない」のです。これはメディアでは誰も言っていない(たぶん)ことでしょうから、言っておきます。韓国あたりの高官あたりに訊いてみてください(どうやって訊くのかは知りませんけれど)。間違いなく、「北朝鮮には存続してほしい」というハズです。ここにやっかいな逆説があります。北朝鮮は、いつ「核のボタン」を押すかもしれないのに、それでもなお周りは「存続してほしい」と思っているからです。

なぜでしょうか。それは北朝鮮絡みの利権でしょうか? それもあるでしょう。しかし、私が注目しているのは、北朝鮮崩壊後の難民問題です。おそらく、中国や韓国、そして日本には莫大な数の難民が押し寄せることになります。それを日本は受け入れることができるでしょうか。おそらく答えはNOでしょう。難民を受け入れざるを得ない状況になってしまうと、ただでさえ外国人に対して排他的なふるまいをしてしまう日本人と融合できるかはわかりません。それに、政府は財政問題が勃発することを懸念しているはずです。それに、日本国内のほとんどは、日本語を読める人たち向けの施設にしかなっていないですよね。難民受け入れ問題は、北朝鮮崩壊について論じるときに、失念してはならない問題のように思われるのです。

私は、現実主義者の立場から、北朝鮮を崩壊させるのではなく、出来る限りソフトランディングを狙うべきだと考えています。これには異論もあるでしょうから、意見賛同の強制はしません。ただ、一部に見られる強行案だけでは、物事は上手くいかないだろう、とは考えています。北朝鮮への経済政策がどこまで効くのか、について私は疑問です。おそらく、庶民の生活が窮するだけで、指導者層には痛くも痒くもないでしょう。経済政策よりも、より外交的な面で、アメリカと中国を担ぎ出し、北朝鮮から中国への移民ルートを構築した方が早いはずです。

優れたジャーナリストたちの報道によると、現在でも北朝鮮から中国へ向けてかなりの数の亡命者が「ほんとうは存在する」とのこと。おそらく両国とも大騒ぎせずに、今のところは静観しているのでしょう。韓国と日本が難民を受け入れざるを得なくなる前に、いかに中国に受け入れてもらうか。まことに自国主義的な言い方をしてしまえば、そういうことになるでしょう。

なお、私は必ずしも難民受け入れがNGといっているわけではありません。私はむしろ、外国人労働者や難民、いや外国資本ですら開国すべきだという思想を持っています。しかし、現在の日本世論がそれを受け入れられるかはわかりません。ただ、その世論に迎合するにしても、上記の観点くらいは持っておきたいと思うのです。

北朝鮮が行った拉致は、たいへん残酷で、許しがたい。しかし、その感情発露と、外交上の手法を取り違えてはいけない、とも思います。核武装でもなく、単なる経済政策でもなく、また怒りに任せた無策でもなく。日本が世界の国々とともに実施するアプローチは、単なる北朝鮮の崩壊推進ではないはずです。

むしろ、いかに劇的な崩壊を回避させ、難民問題をクリアしていくか。まず、その前提を共有したい。私はそう思っています。

歪んだ北朝鮮報道を見ながら私が思うことは、たとえばそんなことです。

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