「査定価格20%アップ!買い取り強化中!」

私が利用する大手古本チェーン店の店頭に、こんな掲示がありました。でも「そうか!だったら今はオトクだね!よぉーし、だったら家の読まない本を持って行こうか!」とはなりません。

私は、かなり本を買いますし、読みます。最近では「自炊」とも呼ばれる、読み終わった本をスキャナーで読み込みこんでデータ化しています。おかげで以前より本を売る量は減りました。それでもすこし気を抜くと、部屋は本で一杯になってしまいます。そんな私でも「20%アップ」には心惹かれることはありません。

これは、これまでに幾度となく買い取って貰った時の、まさに買い取り価格に原因があります。毎回、買い取り価格の明細を見る度に感じる釈然としない気持ちがそうさせるのです。価格が安いことに腹を立てているからではありません。買い取りの基準がさっぱりわからないことに、言い知れぬ不条理を感じているのです。

古本の査定価格について、一般的には定価×10%が基準です。しかし、実際の買い取り価格は違っています。大手古本買い取りチェーン店では、本社からの通達による基準を持っているといいます。残念ながらそれが売り手に公開されることは、一部の本を除いてありません。

買い取り価格の基準が明確でないとき、果たして「20%アップ」という謳い文句に踊らされて良いのか。これが私の感じている疑問です。ただ、実際に本を持ち込んで後に、納得がいかない!と、本を持ち帰って他店に持ち込むことはありません。そんな時間よりも、部屋が整理され快適になること、そして何より古本屋を巡る時間に対比して、自分が得られるリターンが明確でないためです。早々に売ってしまった方が良い、そのように割り切っているのです。

そして元の謳い文句へと戻ります。そもそも買い取りの基準が明確でないときのもう一つの疑問です。20%査定額をアップするということが、忠実に行なわれるでしょうか。20%アップしたかどうかを追求する術を、我々は持っていません。確認できないのであれば、実施されていないと考えるべきではないでしょうか。

そしてもう一つ、同じように感じている事例をお知らせします。読者の皆さんも良くご利用される飲食店のお話です。いろいろな飲食店検索サイトでは、無料で割引クーポンを入手することができます。クーポン券をよくよく読んでみると、こんな注意書きがあります。

・【予約】のみ受付  会計後の申請は【無効】

・要予約・他券併用・予約なし利用不可

一方で、こんな注意書きもあります。

・会計時にご提示

上記の2つの異なる注意書きのあったクーポン。いずれのケースも、飲食代金を10%~15%値引くことが謳い文句です。私の場合、お店選びに際しては、できるだけ後者のようなクーポンを提示しているお店を選ぶことにしています。前者のお店、ほんとうに値引きをしているでしょうか。値引きをする前の価格に対して妥当性のあるサービスが提供されているかどうか。そもそも御客様への価格以上(=値引きを実施して)のサービス提供を覚悟していれば、予約の有無は関係ないはずです。事前に値引かなければならないお客をお店側が知るメリットは大きいのです。飲食店の材料費率は、一般に30%と言われます。事前に値引かなければならないお客であれば、値引きによる利益への影響を少しでも無くしたいと考えないでしょうか。一方、お客側のメリットには何があるでしょう。事前予約で場所が確定される……くらいでしょうか。確定=変更できないとの点で、デメリットかもしれないですね。

前者の条件を提示したお店のすべてが、事前に値引かねばならない御客様を知ることで、具体的な方策=提供するサービスの質を下げることを行なっているとは限りません。そもそもなぜ事前提示や予約を条件にする必要があるのか、を考えるとき、いろいろ勘ぐってしまうわけです。

いろいろなものの値段が、なぜそうであるのかという理由についてどうしても考えてしまいます。いや、考えないではおれないのです。我ながら「バイヤー病」だと思っています。ただ、いつもそんなことを考えているわけではないです。例えば、気の合う仲間との語らいに、支払金額の妥当性とトコトン追求することはしません。妥当性の追求には時間も必要です。それよりも「楽しむ」ことを優先させるためです。だって、久々に集まった語らいの場で、お店への支払金額に妥当性がないと騒ぐ輩がいたら、困りますよね。もちろん、ぼられた場合は別ですけど(笑)

バイヤー病の症状には、大きな問題点もあります。納得した場合は払ってしまいます。自分が得た価値に対して、安い!と感じたときには、心から感謝して、気持ちよく支払いも済ませてしまいます。理不尽な値引きを求めるよりも、妥当性が担保された満足を優先させるわけです。だからこそ、簡単に納得してはいけないんだと考えています。

私がこのように考える根拠は、価格には全て説明できる理由があるはずだ、とのいうものです。どんなものでも、金額が提示されたものには、その金額に妥当性を考える人が最低一人は存在します。問題なのは、妥当性を誰が考えたのか、との点です。バイヤーの仕事は、この妥当性をバイヤー目線で確保することです。決して、売り込んだ側の見積書に盲従することなく、判断基準を自ら持ち、妥当性を判断することです。売り手には「売らない」という判断も持っています。従い、バイヤーが目指すべきは、購入価格に関して最低二人、売り手と買い手双方が、妥当性を担保させるということになります。

バイヤーとしての自分にとっての妥当性を確保する、それこそがバイヤーの本分と考えているのです。

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