テキスト版中四国購買ネットワーク会スペシャルトーク(牧野直哉)

テキスト版中四国購買ネットワーク会スペシャルトーク(牧野直哉)

先日おこなわれた中四国購買ネットワーク会。その際にお話しする機会を頂きました。今回はその内容を、メールマガジンでもお伝えします。

次のようなテーマでおこなわれたディスカッションの前段としてお話ししたものです。

●ディスカッションテーマ

「購買と他部署との壁、どうなっていますか?それを乗り越える工夫、していますか?」あなたは、購買と他部署との壁に悩んではいませんか?

「新しいコスト削減のネタがあっても、設計が取り合ってくれない」

「製造現場の意見が強くて、購買は言いなり」そんな声が聞こえてきそうです。

一人で悩まずに、その悩み、ここで皆で考えてみませんか?購買ネットワーク会は、そういう場でありたいと思っています。

このようなテーマが選定されるのは、多くの調達・購買担当者が、社内の関連部門との間に立ちはだかる「壁」に悩んでいるとの証左ですね。私は最初に今回お話したテーマの中で使用される「壁」という言葉を次の通り定義しました。

「調達購買担当者(バイヤー)業務の円滑な遂行に際して、関係・関連部門との間に存在する障害で、相談・調整・ときには交渉によって乗り越え(解決する)なければならないもの」

まず、そもそもなぜ調達・購買部門とそれ以外に、上記に定義したような「壁」が存在するのでしょうか。私は次の通り2つの理由を挙げました。

1. 社内で唯一、公式的に「お客さん」であることが仕事であること

2. 「買う」ことは、誰にでもできるとの誤った認識

まず一つ目。これは歴然とした事実ですね。日本では購入代金、使用代金を支払う側を「お客様」と称します。普段話をするサプライヤー側の担当者も営業パーソンですよね。営業が売り込みをかける相手ですから、立派なお客様です。「お客様」であることが、どうして他部門との「壁」となるのでしょうか。

「もうビールは買わなくて良いのだろうな」

「盆暮れの付届けで、家が建つのじゃないか」

「ただ酒もほどほどにしろよ」

かつて、私自身が営業部門から調達・購買部門へ異動となった時、営業部門の同僚から投げかけられた言葉です。「ビール」とは、事あるごとにビール券を貰うこと。「盆暮れの付届け」とは、お中元やお歳暮。「ただ酒」とは接待です。サプライヤーから様々な利益供与を受けることを前提にしての発言でした。そんな発言の中に「これからは楽になって良いな」といった思いがあるのです。しかし、だからといってみずから調達購買部門へ異動を希望するかといえば、そんなことはありません。それなりにメリットがあっても心から羨むべき存在でない。これを二つ目の「買う」という行為への誤った認識をベースに考えてみます。

繰り返しになりますが、現代社会では日々「買う」ことで生活を営んでいます。企業人であっても、毎日の生活では「買って」いますよね。生活日常品であれば、コンビニがあり、量販店があり、苦労せずに欲しい物を手に入れることができます。この「苦労せず」の部分が重要です。我々調達・購買が行なっている「買う」も、端から見れば「苦労せず」におこなわれている、そう他部門からは見えるはずなのです。

企業人であれば、今自分がやっていることに相応な自負を持っていますね。会社なり、自分の家族なりを支えているとの自信です。それは、営業であり、技術(設計)であり、生産・経理・人事といった部門です。各部門とも、業務遂行上必要となってくる「スキル・知識」が存在します。一方、調達・購買部門のおこなう「買う」は誰しもができると思われている。その差による社内的な蔑視が、調達・購買部門と他部門の間に存在する壁の原因なのです。

では、そんな壁を取り払うためには、どうすれば良いのでしょうか。二つあります。

一つ目は、前段で「いいな、調達・購買へ異動して」といいつつ、自分たちは調達購買部門への異動を希望しない同僚を想定します。もし、もう一度そのようなことを言われたら、私はこう言い返そうと思っています。

「そんなことありませんよ、皆さんが売るのに苦労するのと同じく、「買う」ことも大変なのですよ」

そして「そんなことないだろう」と言われたら、さらにこう返します。

「それでは、私と同じように買ってみてください。絶対にできないと思いますよ。個人で買うのとは違うのです。私の権限を渡しますから、ぜひやってみてください」

けんかを売るのです(笑)いえ、言い過ぎました。実際にその通りやってみるのでなく、上記のように言い返せる、営業、技術他の部門と同じような強い自負を調達・購買でも持つ必要があるのです。ただ漫然と買っているのでなく、QCDや他の要素での要求をバランス良く実現させる。最適価格で買っていることをまず調達・購買部門の自負として確立することが必要なのです。それでは、調達・購買部門の自負をどのように確立するか。

来月、アメリカ東部のボルティモアでISM総会が開催されます。同じようなカンファレンスは、ヨーロッパにも存在します。また欧米の大学には「購買学」「調達学」があります。学問になるということを簡単にいえば、「買う」という一連の行為に根拠を持たせて、実務経験がなくともプロセスを理解できることです。この分野が日本では徹底的に遅れをとっています。私が調達・購買部門へ異動した際に言われ、忘れられない言葉があります。

「バイヤー、10年やって一人前」

当時、私の所属部門では20年ものキャリアを持つバイヤーが多くいました。サプライヤーに多くを語らずとも調達・購買が実現できる強者たちです。そしてこんな教えを受けました。先輩たち様々なやり方を盗めと。私はビジネスでなく、なにか調達・購買がある種の伝統工芸の技なのか、との印象を受けました。そんな言葉に反論できず、でも釈然としなかったのです。「盗め」とは、教えないと言っていると同じですね。でもそうじゃない、実態としては教えられないのです。自分たちは教えられていない、試行錯誤の積み重ねで、あらゆる状況に対応できるほどの「経験」を持っているに過ぎないわけです。したがい、根拠なく「10年やって」なんて膨大が時間によってしかバイヤーのノウハウは得られないとの結論にいたるのです。このことが、若く調達・購買部門へ異動した人を苦しめ、他部門から、なにやっているかわからないといった見方を助長しているのです。

だからこそ、一子伝承の「技」で無く、希望があれば誰でも、調達購買をおこなうための買い方を、いつでも学べる「技術」にしなければならないのです。技術+経験で、経験だけのバイヤーを凌駕するスキルを確立しなければなりません。さらに、どうしたらより好ましい条件で買うことができるかを関連部門に指し示さなければならない。こうして、他部門から調達・購買の業務へ理解を得ることが必要です。こうしなければ、他部門との間に存在する壁は乗り越えられないのです。

本メールマガジンには、実際に中四国購買ネットワーク会にご出席の方もおられると思います。このような機会を頂いて、誠にありがとうございました。ここには書いていない話も致しましたが、ぜひわれわれ未来調達研究所と一緒に、調達・購買の未来を明るく、楽しいものとしてゆきましょう。楽しく、刺激的な時間をありがとうございました。今後ともどうぞ、よろしくお願いします。

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