人を動かすにはどうすればよいだろう(坂口孝則)

人を動かすにはどうすればよいだろう(坂口孝則)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください・今日から使える、相手を納得させるテクニック

今回は、ちょっと「超」理論的なことをお話ししたい。これまでもこれからも、通常号では調達・購買に関わる理論的なことを述べているし、述べていく。ただ、調達・購買とは、相手がいる仕事である。理論がどんなに正しくても、相手を納得させることができなければ、仕事は上手くゆかない。

私がかつて「調達力・購買力の基礎を身につける本」「調達・購買実践塾」といった本に「交渉などいらない」と書いたからだろうか。当時、多くの人から「お前は理論だけですべてが上手くいくと思っているのだろう」と批判を受けた。もちろん、この「交渉などいらない」というのは、プロセスや理論が重要であるということを強調したかったからだったので、完全に否定したつもりはなかった。しかし、世の中には「文字通り受け取る」人がいる。これは私の反省点の一つだ。

ちなみに、山本夏彦さんは「子供や女性に参政権はいらない」と書いた。ただ、文脈を読むと、「子供や女性」とは「何も考えておらず、周囲に迎合する人」と読むことができ、ほんとうに「子供や女性」から参政権を剥奪せよといっているわけではない。しかし、これまた「文字通り受け取る」人から氏は多くの批判を受けた。

そのような人たちは、このメールマガジンの読者にはいないと信じ、話を進めよう。そう、理論だけではなく、いかに相手に納得してもらうかだった。もちろん、「交渉論」ということでこのメールマガジンにも書いてきた。ただ、それもどちらかといえば、「理論」に近い。

そうではなく、今日から使える「ちょっとしたテクニック」はないだろうか。交渉をする、あるいは対話している相手を惹きつけ、こちら側の意見に納得してもらえるテクニックは。

そこで、今日から使えるテクニックをご紹介したい。私を個人的に知っている人は、「あ、よく言っているな」と思うかもしれない。それは自分の技を暴露することにあるわけだがーー。そこには二つの「魔法の言葉」がある。

たぶん、ではあるものの、この二つを知るだけでも価値があるのではないかと思う。

1.「~って普通の担当者だったら言うよね」

2.「わかります。その通り、だから」

私とよく話す人は、上記のフレーズがよく出てくることに気づくだろう。これは意図的にやっている。

・1.「~って普通の担当者だったら言うよね」について

まず1.だ。おそらくみなさんが話をしているときに、相手の顔がだんだん曇っていくことがあると思う。こちらの言っていることに首をかしげているのだ。そのとき、こう切り替えそう。

相手「田中さん、この調達が上手くいかなかったことについてどう思う?」
あなた「そうですね。これは、戦略上の問題じゃないかな。通常は1社に集中して発注をかけることはしませんよ」
(相手の顔が曇る。ここであなたは魔法の言葉を使おう)
あなた「という風に、普通の担当者だったら言いますよね。そうじゃありませんか?」

こうやって、相手に振ってみよう。すると、相手は

相手「そうなんだよ。ほとんどの奴らはそう言うんだ」
あなた「でも、本質はそこではない」
相手「そうそう」
あなた「おそらく、まったく違うことをお考えでしょう?」
相手「たとえばさ、もっと契約で厳格に縛ることを忘れてはいけないと思うんだ」
あなた「その通りですよ。実は、契約の不備は昔から感じていまして……」
(中略)
あなた「ここまでわかって言っているんですが、その上で戦略上の問題にフォーカスする必要があると思うんです」

という風に続けることができるだろう。これはレトリックだろうか。そうかもしれない。ただし、相手の意見をこのようにしてまず聞き出してから、納得させ、そのうえで自分の考えを注入するとだいぶ相手からの反応が異なる。なぜなら、相手は、あなたが自分にとっての最大の理解者であるから、その理解者からの意見を受け入れやすくなるわけだ。

「という風に、普通の担当者だったら言いますよね。そうじゃありませんか?」といってしまえば、数秒間は稼げる。上記の例のように、相手に真意を聞いてみてもよいし、あるいはその数秒で違う案を考えてもよいだろう。

相手を納得させる。このプロセスは重要だ。そのために、この「~って普通の担当者だったら言うよね」が使えるはずだ。

・2.「わかります。その通り、だから」

次に2.だ。これは若干わかりにくいけれど、接続詞を変えることだ。相手がこちらの意に反することを言ってくるとき、意識的に接続詞を変換してみよう。具体的には「だけど」ではなく「だから」に変換するのだ。

これも例をあげたほうがよいだろう。もし、「だけど」で受けた場合は、こうなる。

相手「最近はものすごく忙しくて、しかも、あのサプライヤーがまったく納期を守ってくれなくて、そのフォローでバタバタしちゃっていて……。もうとても、依頼された仕事ができないんですよ」
あなた「だけど、こっちの仕事も大切だろう。忙しいからって、仕事を放棄するのは許されない」
相手「でも、言ってるじゃないですか。いまはものすごく忙しいからできないんですよ」
あなた「忙しさを理由に怠けることが許されるはずはないだろう?」

このように終わりなき議論が待っている。ここで次に「だから」で受けた場合だ。

相手「最近はものすごく忙しくて、しかも、あのサプライヤーがまったく納期を守ってくれなくて、そのフォローでバタバタしちゃっていて……。もうとても、依頼された仕事ができないんですよ」
あなた「わかるよ。だから、今後そのようなトラブルを回避するためにも、できる限り協力してくれるね? 今お願いしている仕事は、長期的に見れば、キミが困っているトラブルを減らすことにつながるはずだからね」
相手「まあ、そうですかね……」
あなた「忙しいのはわかるよ。だから、その忙しさを軽減するためにも、できる限りのことをやってみようよ」

冷静にお読みの方はおわかりのとおり、あなたは「だから」で受け、相手が断ろうとしていたまさにその理由を包括する形で相手を説得している。自分が依頼した仕事をこなせば、納期フォローだとか、それら一連の仕事を軽減することはできるのだろうか。わからない(笑)。ただ、詭弁かもしれないが、この世の出来事はどこかでつながっているはずなのである。相手が否定形で投げかけてきたとしても、「だから」で受けるに足る理由はきっとあるはずだ。

考えてみるに、論理としてどう転がすことができるかに、交渉や掌握の多くがかかっているということができる。交渉や掌握の成否は、いかに相手がほしい情報を与え、いかに相手の欲求に近づくことができるかだと説明してきた。もちろん、それには骨太な手法や知識を身につけることが必要ではある。ただ、上記のような「ささやかな」テクニック(フレーズ)も役に立つ。

では、明日から上記の二フレーズがみなさまのお役に立つことを願っている。ほんとうに「魔法の言葉」になるかは、みなさんの実践を待つほかないのだけれど。

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