感情購買学(2)

感情購買学(2)

これだけの情報だったら、Bを選択した人が多いのではないか。

しかし、冷静になって考えれば、製品Bだって故障してしまえば社内復旧費は900万円かかるはずである。逆に言えば、製品Bは1/3の確率で故障してしまうかもしれないのだ。

次のような計算式が浮かぶ。

製品A:1/5×900万円-300万円(原価低減額)=-120万円
製品B:1/3×900万円-400万円(原価低減額)=-100万円

となり、結果としては製品Aを選択するほうが期待値は優れている(つまり、安くあがる)。

これほど仮定がはっきりしている例はないにしても、見た目の条件の分かりやすさで感情選択されていることがよくある。

しかも、この例でいけば、よりコストダウンできるほうが結果として比較高になっている。

そんな問題にひっかからない、と思っている方は次はどうか。

『問い:あなたは電気メーカーに属している半導体の購買担当者。もともと歩留まりの悪いコア製品を購入する場面である。AとBのどちらかの製品を900個購入したい。どちらを選択するか』

製品A 「300個は良品である」
製品B 「確率1/3で900個が良品だが、確率2/3で全て不良品である」

これであればどっちを選択するか。

考えてみてほしい。

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Aを選択した人が多いのではないか。

では、次の設定だったらどうか。

『問い2:あなたは電気メーカーに属している半導体の購買担当者。もともと歩留まりの悪いコア製品を購入する場面である。AとBのどちらかの製品を900個購入したい。どちらを選択するか』

製品A 「600個は不良品である」
製品B 「確率1/3で全てが良品だが、確率2/3で900個不良品である」

なぜかこうなると製品Bを選択する人が増えるだろう。

もちろん、よく考えてみれば分かるが、どっちの問題とも同じ仮定を、異なる言い方にしているだけである。

細かなコトバの表現の違いはあれど、選択した答えが異なっているのは基本的におかしい。

・・・・

私の前述の例でいけば、私は間違ったメーカーを選択していた。

もちろん、話はそんなに単純な計算式で表現できるものではなかった。

ただ、見た目のコストダウン額だけにとらわれており、仲良くしていた営業マンの表現の「巧みさ」に騙されていたところもあった。

見た目のコストは安くなったが、リスクや試験・導入のコストを考慮すれば全く効果がなかったという話である。

表面的なコストダウン額しか評価基準にならないバイヤーも多いが、現在ではトータルコストの低減を求められているバイヤーも増えてきている。

極論を言うが、見た目の安さや表現に騙されて、「この安い製品を使いましょう!」と叫ぶよりは、何もせずに設計者の言いなりになっていたほうがいい。

どこか最近の購買関係の資料には「安価製品を使って○○%のコストダウンを!」という表現ばかりが目立つようになってきたように感じる。

不良発生時の補修費用を考慮しているようには思えず、表現だけのトリックに騙されているかもしれないという自覚すら、そこにはない。

安い製品にはリスクもあり、全ての表現には裏の側面がある。

こういうことを冷静に見極めるのが購買であり、社内の部門が一方向に動きつつあるときに水を差す役割をこそ求められているのではないか。

「バイヤーは『コストダウン!原価低減!』とだけ叫ぶのをやめろ!」

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