物流の話をしよう 1(牧野直哉)

物流の話をしよう 1(牧野直哉)

半年ほど前でしょうか、人事のマネージャーと話をしていました。テーマは、グローバルで統一されることになったジョブグレードを、どのように適用するかという内容です。私のグループには4つのチームが存在し、それぞれにチームリーダーを置いています。人事が作成したジョブグレードの原案に、私は最初、すこし憤慨してしまいます。そして深く反省することになります。

「Logisticは出荷を管理しているだけなので、他のリーダーよりも一つグレードを下げています」

実際は出荷管理だけでなく、在庫管理やサプライヤーから納入される調達品の在庫管理、構内物流、海外サプライヤー、顧客とのやり取りまでを管理している部門です。地味な部門ゆえに、私自身これまで業務内容を積極的に人事へPRすることはありませんでした。私は実態を説明し理解を求めました。そんな出来事を機に物流関連の文献を何冊か買い込み読んでみました。

都内の大きな書店と、アマゾンを通じて、私は5冊の本を手に入れました。どの本にも共通していたことがあります。ある本では、約200ページの中で、実に50ページが調達・購買と密接に関連していました。サプライチェーンや在庫管理を念頭に置き、発注方法にまで言及しています。調達購買と近いようで、実は何も知らなかったのが私にとっての「物流」でした。そして、今年の5月のISM総会でもこんなことがありました。

基調講演を行なった米国の自動車部品メーカーの事例を紹介するセッションでのお話です。その企業は、グローバルに展開しています。米国だけでなく、ヨーロッパ、アジア、日本にも工場があります。地域でのニーズと、リスク分散を前提に、同じ製品をいくつかの拠点で生産しています。各拠点で他の工場の製品を必要とする場合、購入先の選択方法を紹介していました。セッションの中ではQCDを総合的に評価する方法を説明しています。当然、物流に関する比較方法も登場します。英国の工場が、ドイツと韓国のいずれから購入すべきかについて検討したプロセスが紹介されていました。紹介された輸送リードタイムは、時間表示でした。物流の各工程における時間数が表示されています。リードタイムといえば「日数」だった私には衝撃的でした。

これは、自動車部品メーカーだったことが影響しているかもしれません。なんといってもJust In Timeを強いられているはずですから。しかし、だいたい××日でなく、整数で時間数が表示できるほどに詳細を検討していることが私には衝撃だったのです。

実は、大手企業のバイヤーほど物流・Logisticに弱いと言われています。特に、自動車・電機といった日本の基幹産業に従事するバイヤーほど弱い。理由は、サプライヤーとの引き渡し条件の交渉をほとんど行なわないためです。どのサプライヤーにも、同じ条件での取引しているためです。予め決まった条件であるために、物流費に関する交渉など行なわれないのです。

もう一つ、物流のアウトソーシングによるノウハウの社外化の問題があります。あたり前、日常的に物流業務をアウトソーシングしているが故に、物流へ無関心になっている点も見逃すことはできません。これからのバイヤーの守備範囲は大きくなって行くでしょう。そうしなければ、新興国に展開した日系企業で現地採用されるバイヤーとの比較で勝ち残ることはできません。私は、物流を購買するバイヤーを目指せと言っているのではありません。物流という費用の一要素への知見も、これからのバイヤーには必要であると強くいいたいのです。管理費××%の中に、物流費も含まれていますとサプライヤーの営業マンにに言われ、あぁそうですかと納得してはならないのです。

この記事を書いているときに、このようなページを見つけました。

大河原克行の「白物家電 業界展望」
パナソニックが創業以来初めて取り組む、主要本部機能の海外移転の狙い
~2012年度に調達・物流の本部機能をシンガポールに移転

日本を代表する家電メーカーが、2012年度に調達・ロジスティクスの本部機能をアジア(シンガポール)へ移転することを紹介する記事です。この記事で、私が感じた問題意識は次の2点です。

(1)調達先、サプライヤーのアジアシフト

記事の中で、このような数値が紹介されています。地域別調達額の推移です。日本の占める割合が、2009年度の57%に対し2012年には40%にまで縮小するとの見通しです。同時に中国・アジアの割合は50%になるそうです。これは、全体の売上の規模、そして絶対額としての推移も確認しなければなりません。しかし、調達購買の主力が日本から出て行っていることは、日本で調達・購買担当者の生き残りが難しくなっている実態を表していると考えられます。なにもかも日本からなくなるわけではありません。事実、日本国内の戦略的パートナーと位置づけるサプライヤーとの関係は、より強固にするとしています。

(2)調達と物流・Logisticの密接な関係

Logisticも、同じようにアジアシフトが鮮明となってきた背景が、この決定の裏にあります。契約の集中化による有利な、競争力のあるレートの獲得、日本国内の先進的な物流事例の新興国での展開。これは、販売ルートへの出荷と共に、調達物流の面でも取り上げられる内容とされています。こういった内容を、国内外の物流業者と実現させていくのは誰なのか。もちろん、バイヤーではないでしょうか。

1970年、高度成長の真っ直中であった日本である提言が行なわれました。早稲田大学の西沢脩教授が「物流は第三の利潤源」と唱えるのです。当時は、成長率に陰りが見え始め、同時にあらゆる面での非効率性が指摘され始めた頃だったそうです。西沢先生が書かれた「流通費―知られざる"第三の利潤源」という1970年に刊行された本は、確認できただけでも12版(11回追加で印刷され、配本された)までおこなわれています。この手の本では異例です。当時の日本では、それほど衝撃的だったのでしょう。今となっては、なにかあたり前で、使い古された感さえある言葉です。しかし、この言葉に魂を宿させるのは、バイヤーではないか、そう考えるのです。

この「物流の話をしよう」では、前回までの品質のお話と同様に、バイヤー目線での「物流」を論じてゆきます。読者の皆さんの中には、物流のスペシャリストの方もおられるかもしれません。でも次回は「物流のコスト構造」について考えます。その上で、サプライチェーンの中での、物流・Logisticの位置づけや、発注方式を決定する際の一つの判断材料としての「物流」に関する知識の利用方法をおしらせします。

私は直接材のバイヤーとしてのキャリアを積んできました。はっきりいえることは、物流にも首を突っ込まないと、もったいないし生き残れないということです。それは次回以降のここで、お話を進めてゆきたいと思います。

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