調達購買にとって「きく」とは

調達購買にとって「きく」とは

2012年度の書籍ベストセラー1位は、阿川佐和子さんの「聞く力」でした。
2012年1月に発売以降、同年12月には100万部を突破するベストセラ
ーになりました。この本だけでなく、池上彰さんの「伝える力」シリーズも
ありますし、アマゾンで「聞く」を検索すると、じつに2236冊もの文献
がヒットします。私は、興味あるテーマに沿った文献を入手可能な本はすべ
て手に入れて読んだりします。しかし「聞く」について、その読書法は少し
ハードルが高そうです。

営業パーソンに「聞く力」は必須です。少しでも付加価値の高い成果を求め
るためには、お客様の抽象的なニーズを具体化する「提案型」と呼ばれる営
業スタイルが必要です。「聞く」に関する文献も、円滑なコミュニケーショ
ンを実現して良好な人間関係の構築を目指す、あるいはもっと直球で「聞く
力」「聞く技術」を謳う本もあります。われわれのように調達購買部門で働
くとは、そういった「聞く」能力を駆使する人を相手にして仕事をします。
しかし、売り手の「聞く」能力に依存して、売り手に都合のよい提案を受け
ているだけが調達購買部門の仕事なのでしょうか。調達購買部門には3つの
「きく」が必要だと考えています。

1つめは、傾聴する「聞く」です。自分の興味のあるなしに関係なく、サプ
ライヤーの営業パーソンの話に耳を傾けて、発言の趣旨を的確に理解する能
力です。私はアポ無しの売り込み訪問を可能な限り受け入れます。限りなく
ゼロに近いけど、もしかすると魅力的なサプライヤーかもしれないとの淡い
期待を抱いて対応します。そんな場では、まず何を売り込みたいのか、どん
な優位性があるのかの理解に努めます。

2つめは、質問する「聴く」です。1つめのサプライヤーからの売り込みを
ひととおり「聞いた」後、もし、何を売り込みたいのか、どんな優位性をも
っているのかが不明確な場合は、不明点を明らかにするために質問します。
また、売り込みたいモノや、優位性が明確になった場合も、自社のニーズに
マッチするかどうかを確認するために、詳細内容を引き出す質問をします。
自社のビジネスとの適合性を確認するのです。

3つめは、サプライヤーへの影響力をおよぼした結果のききめとしての「効
く」です。調達購買部門はサプライヤーに影響力を及ぼして、より自社のニ
ーズに適合する納入を実現させなければなりません。調達購買部門はサプラ
イヤーにニーズを要求事項として的確にサプライヤーに伝える。そして要求
事項を実現してはじめて調達購買部門の責任が果たされます。価格にこだわ
らなければ、要求事項の実現は容易です。しかし、販売市場での適正価格や、
自社の利益確保を考えれば、価格はできるだけ低い方がいい。要求事項をで
きるだけカバーしつつ、購入価格もできるだけ抑えなければならない。この
二律背反の実現には、サプライヤーの協力が不可欠です。協力を引き出すた
めには、調達購買部門の言動に説得力があって、サプライヤーに効果的に作
用しなければならないのです。

1つめと2つめの「きく」は、実際の面談かもしれないし、メールやFAX
のやりとりの中でかもしれません。面談であれば「うなづき」や、聞き手の
態度によっても、引き出される話は違ってきます。また、メールやFAXで
あれば、最後まで読んでもらうための文章記述方法によって、理解度が変わ
ります。「聞く」も「聴く」も、すべて実務に役立つ技術論への落とし込み
が可能です。確かに「聞く」のも「聴く」のも重要。でも、ただ重要と思う
だけでは不十分です。コミュニケーションが成立するためには、音として相
手に届いているのでなく、理解して次なる行動への「きっかけ」にならなけ
ればなりません。

当然、3つめの「効く」も、サプライヤーへ影響力をおよぼして、自社に有
利な条件設定を実現しなければなりません。そのためには、具体的な技術論
としての「効く」ための手段を意図的な実行が必要です。サプライヤーとの
良好な関係は、人間関係の良し悪しだけではありません。加えて、利益を追
求し、社会的な貢献も実現させなければならない。友人・知人との間の人間
関係とは異なる技術論を武器として活用しなければ、ビジネスであるにも関
わらず属人的な対応に終始してしまうのです。

今回ご紹介した3つの「きく」は、調達購買部門に重要なサプライヤーマネ
ジメントの根幹をなす非常に重要なポイントです。特に3つめの「効く」を
正しく実現する手段を持たなければ、機能的、効果的な調達購買戦略は作れ
ないでしょう。「きく」とは、音として届いている、聞こえているのではダ
メです。それがすべて効率的な行動へとつながって、はじめて「効く」が実
現可能になります。

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