遥かなる調達・購買構造改革②

遥かなる調達・購買構造改革②

でも、彼の怒りは収まらないようです。「そもそもなあ、値上げしたいとき
は、購買担当者さんにバレないように、こそっと見積書を書き換えるものな
んだ! または、購買担当者さんを居酒屋に誘って、なし崩し的に値上げを
認めさせるんだ! そんなことも知らないのかッ!」

そして、まだ購買王さまのスピーチは続きます。「ということでサプライヤ
ーのみなさま、私たちの意気込みがわかっていただけたと思います。これか
らはスピードの時代です。意思決定も素早くし、サプライヤーのみなさまと
時代の変化にスピーディーに対応したいと願っております」。すると、ひと
りのサプライヤーが手をあげました。「王さま、そんなことよりも、昨年の
巨大案件はどうなったんですか? 担当者さんからは『もうちょっと待って』
と言われて半年が過ぎました」。

王さまは、その質問には即答しました。「いや、実はその巨大案件こそ、わ
れわれの調達改革のシンボルなのです。実は、これまでサプライヤーさん決
定までに30プロセスを費やしていました。つまり、30人の承認者がいたわけ
です。しかし、その案件からはなんと29プロセスに減らしました!」。する
と、王さまの隣にいた購買家来が、王さまに耳打ちしました。「もう28プロ
セスまでいっています」。王さまは自信満々に「このスピーディーさ。これ
をみなさまにも見習っていただきたい」。

すると、こともあろうことか、違うサプライヤーが王さまに怒鳴り声をあげ
ました。「こっちには、『見積りを早く出せ!』っていうくせに、そちらの
意思決定はいつまでたってもチンタラしてるじゃないか! 1プロセス減っ
たくらいで、何がスピーディーだ!」。これは謀反に近い、あってはならな
いことです。まわりのサプライヤーたちは、その謀反者を非難しはじめまし
た。「王さまがせっかく改革の成果を説明しているのに、お前はなんてこと
をいうんだ!」「そうだ! どうせ、調達改革なんて、たいしたことないっ
て知ってるくせに、今さら何をいっている!」「この王さまだって、あと3
年で定年なんだ! たいしたことができるはずがないだろう! それくらい
理解しろよ!」「調達王国が、一つでもプロセスを変えたんだ。それだけで
も賞賛ものじゃないか!」。罵声は続きました。

ということで、謀反を起こそうとしたサプライヤーは殴打され、消えていき
ましたとさ。

めでたし、めでたし。

王さまはスピーチが終わると、ふう、とため息をつきました。

そして、「革新者は理解されない、私のようにね」とつぶやきました。

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もちろん、上記は架空の国での出来事である。ところで、意外に知られてい
ないことだが、小泉元首相が有名にした「構造改革」という言葉は、実はほ
とんどの首相の所信表明演説で使われてきた。日本は(もちろん皮肉だけど)
構造改革ばかりだったということになる。構造改革を叫ぶのは良い。ただ、
構造改革を実施する素地があまりに杜撰だったら、その言葉はなかなかサプ
ライヤーに響かないだろう。もちろん、私は真剣に調達・購買改革に取り組
んでいる企業をたくさん知っている。ただ、改革を叫ぶそばで、サプライヤ
ーから冷ややかな目で見られていないことを祈る。

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