2010年の1月に私が主催し「2010年を読み解く」というイベントをやりました。そのとき、私が参加者のみなさまに「Twitterというものを始めましょう」と呼びかけたとき、まったく認知度がなかったことを思い出します。

私は「#COBUY」というハッシュタグを作り、RT(リツイート)のやり方を参加者のみなさまにお伝えしました。それも今は昔。現在では、ほんとうに誰もがTwitterのアカウントを持つに至りました。たった1年ですよ。凄いものですね。

逆にいえば、1年でネット上のコミュニケーションツールの主流が替わってしまうわけです。現在、少なからぬジャーナリストが「Twitterこそが世界を変える」といっています。その人たちは10年後に同じことを言うでしょうか。とても危険な発言であることがわかりますよね。「Twitterこそが世界を変える」などと言わず、使えるものは使う、程度のスタンスで良いはずです。ちなみに私のTwitterは「@earthcream」です。ご興味おありの方はフォローなさってください。

さて、「使えるものは使う、程度のスタンス」である私に面白いニュースが飛び込んできました。

「Twitterで株価が予想できる」という記事です。つぶやかれたツイートを分析することによって、なんと86%程度の確率で株価を予想できたというのです。ほんとかよ、ではあります。ただ、集団心理を掬い上げる可能性を見せてくれる意味で、興味深いものです。

各企業の社員のつぶやきを収集することで、合法的に「インサイダー情報」を入手することもできます。とくに金融の世界は欲望がギラつくところですから、このような突飛な発想でさまざまなツールが開発されています。

ところでファイナンスの世界では、「株価は予想できない」ことがランダムウォークからも明らかにされています。株価はこの時点で市場が察知している全情報を盛り込んだ結果ですから、一投資家が将来の見通しを予想したところで意味がありません。なぜなら、そのような情報は、繰り返しですが、株価にすべて反映されているからです。もし、株価の上下が予想できるというのであれば、天才的な占い師かインサイダー情報を持っている人しかいないとされています。

私は「Twitterで株価が予想できる」という記事を読んだからといって、すぐさま伝統的なファイナンス理論が揺らぐはずだ、といいたいわけではありません。面白いな、とは思うものの、伝統的理論がすぐに崩れるはずはないからです(ちなみに、「Twitterで株価が予想できる」のがほんとうであれば、その情報すら株価に盛り込まれるでしょう)。

とはいえ、私が「Twitterで株価が予想できる」を取り上げたのは、秘密というものの定義が変わっていくと感じているからです。アメリカの国家機密なる最大のインサイダー情報までもが「ウィキリークス」で流れてしまう時代になりました。アメリカでは、子どもが母親のFacebookページを見つけてしまい、家族間の会話よりもFacebookページのほうが多くの情報を手に入ることができるそうです。母親が恋愛観をつぶやいてるとかね。そんなこと家族間で話さないでしょ、フツー。それをFacebook上では覗けてしまう。これまでは家族間でも多くの秘密があったところ、あっさりと暴露されてしまうというわけです。これは、怖くもあります。

なぜだか人は発信しないと生きていけません。それは自分が生きている証を残しておきたい、という意思によるものでしょう。ただ、これまでは外に発する機会は限られたものでした。作家やジャーナリスト、編集者等に委ねられた特権だったのです。それを誰もがやり出した。ジャーナリストが公権力の秘密を暴露するものに対して、大衆が自分の秘密を自ら暴露しだしました。単なるつぶやきであっても、そのどこかに「その人のありよう」が帯びるものです。

「Twitterで株価が予想できる」から、秘密というものの定義にまで発展させたわけですが、最後に私の予想を述べておきます。それは将来、選挙がきわめて困難なものになるということです。たとえば、アメリカ大統領に立候補した人を想定してください。これまでも、その立候補者がかつてやってしまった悪しきことを暴露する報道はありました(たとえばマリファナを吸ったとか、実は大学を退学していたとか)。しかし、将来は、その立候補者がやっていたTwitterやFacebookを探すだけで良いのですよ。IDは消えているかもしれませんが、どこかのサーバーにデータは残っているはずです。

多くの人は何らかの「欠点」や「弱点」を持っており、どんな人でも「言い過ぎること」はあります。それらが瞬時に検索され、個人攻撃の材料となるでしょう。これは、ジョージ・オーウェルが「1984年」で予測した監視社会よりも、はるかに恐ろしい世界です。

そのときには私たちは、ある種の節度というものを身につけているでしょうか。あるいは、過去情報からの暴露合戦が盛んになるでしょうか。ネガティブキャンペーンのほとんどが無意味であると信じる私は、前者の予想を信じていたいのです。

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