募金「異」論(坂口孝則)

募金「異」論(坂口孝則)

・東北震災の余波と募金活動

東北震災の余波は続いている。おそらく、東北震災とはいわずに、関東震災といったほうがよいかもしれない。各企業の調達・購買部門はいまだに全容を解明できず、目の前の生産ラインをつなぐことに躍起になっている。ある製品の生産が始まったかと思えば、違う製品の生産が始まらない。サプライヤー工場が復旧したかと思えば、塗料が納入されず生産がストップしてしまう。

在庫のぶんだけ生産が再開したところも多い。ただし、その在庫もいつまでもつかはわからない。在庫がなくなれば各調達・購買部門は枠取りに動くだろう。あるいは海外調達先からの代替品購買か。サプライチェーン全体にどのような影響があるのかまだわからないまま、各企業とも暗中模索が続いている。

では、この震災のなかで、個人ができることは何か。おそらく、「経済活動を再開すること」と「募金」だろう。前者は自粛を"自粛"して消費活動を活発化することだ。では、後者は。これも被災地に貯金を「支援金」「義援金」として送ることだ。

被災地に募金することについて、異議を持つ人はいないだろう。いつだって人間は助け合いのなかで生きている。誰かが困ったときには、日本全体で支えること。これを日本人の美徳として褒める声も多い。

また同時に「募金詐欺」についても多くのメディアが報じている。いわく「街中で募金活動している人のなかには、詐欺集団がいます」と。「彼らに募金をしても私財に化けていくだけです」と。しかし、メディアは詐欺師と非・詐欺師を見分ける方法は教えてくれない。「気をつけましょう」というのがせいぜいだ。

ただ、私が今回述べたいのは、この詐欺師連中のことではない。「ちゃんとした団体」とされている日本赤十字社のことについてだ。私は、これから書くことに、若干のためらいがある。なぜなら、私の主張がもしかすると「募金活動は意味がない」と捉えられてしまうかも知れないからだ。もちろん、私は募金そのものも、日本赤十字社も批判したいわけではない。その前提でお読みいただきたい。

日本赤十字社のホームページをご覧になった方はいるだろうか。ほとんど知られていないけれど、日本赤十字社はさかんに「社員」を募集している。これは通常の意味での社員ではなく、継続的に募金をしてくれる人たちを指す。もちろん、資金協力だけではない。他にも権利を有する。ただし、基本的には募金(資金)を提供することによって日本赤十字社に寄与する。社員にならずとも募金は行うことができ、インターネットバンキングやコンビニ支払いなど、いくつかの手段がある。

ここで、私が注目したいのは、日本赤十字社の決算報告である。日本赤十字社もお金を扱う以上、監査を受けているし、決算も報告することになっている。日本赤十字社の決算報告書など読んだ経験がある人は皆無だろう。日本赤十字社には、このように決算報告が義務付けられている。

・日本赤十字社の決算報告

では、ここから「平成21年度一般会計歳入歳出決算書」を見ていこう。まず、当事業年度(自21年4月1日至22年3月31日)の結果から。事業収入25,085,900,629円(250億円)で、事業費用合計が24,328,360,609円(243億円)で、この段階では黒字化しており757,540,020円(7億5千万円)。

・事業収入:25,085,900,629円
・事業費用合計:24,328,360,609円
・収支:757,540,020円

ここで、注目したいのは、事業収入25,085,900,629円のうちの「一般社資収入」と「法人社資収」「その他寄付収入」で、これらの合計がざっと220億円ほどある。

・一般社資収入:18,257,954,361円
・法人社資収:3,568,836,839円
・その他寄付収入:107,821,948円
・合計:21,934,613,148円

これに対して、事業費用のうち支出は、「災害救護事業費」「救急法等普及事業費」「奉仕団活動事業費」「青少年赤十字活動事業費」「社会福祉活動事業費」「医療事業費」「巡回診療事業費」「血液事業費」「国際活動事業費」までを足しても99億円にすぎない。

・災害救護事業費:2,063,242,346円
・救急法等普及事業費:1,056,526,389円
・奉仕団活動事業費:674,078,697円
・青少年赤十字活動事業費:665,786,510円
・社会福祉活動事業費:295,759,030円
・医療事業費:382,789,883円
・巡回診療事業費:22,411,670円
・血液事業費:230,223,700円
・国際活動事業費:4,513,033,961円
・合計:9,903,852,186円

これらは事業費という名目での支出である。ゆえに、募金として入ってきたお金がすべて災害救護で被災地の人たちにまわっているわけではないことは注意が必要だ。事実、「一般管理費」として「管理人件費」「管理事務費」はそれぞれ2,990,772,608円(30億円)、4,268,577,416円(43億円)と計上されている。

あまり私は適当な計算はしたくない。ただし、220億円に対して99億円くらいだから、100円募金したとしてもだいたい50円くらい(約半分)が困っている人たちの救援に使われていることになる。

みなさんはどう思っただろうか。一般人のイメージでは、募金された100円は、そのまま被災地支援に100円が使われている、というものではなかったか。実は私も純粋にそう信じていた。これまで日本赤十字社を通じて渡される募金に協力したことがある。そのときに「自分が募金した1,000円は、1,000円のまま被災地で役立つ」ものだと思っていた。しかし、実態としては約半分(これは詳細がわからないので約半分と断定することは避けなければならないが、もっと低い割合だろう)が届く。

冒頭で私は<これから書くことに、若干のためらいがある。なぜなら、私の主張がもしかすると「募金活動は意味がない」と捉えられてしまうかも知れないからだ。>と書いた。繰り返す。私は募金そのものも、そして日本赤十字社を批判したいわけではない。それに贔屓目で見なかったとしても、日本赤十字社の活動は評価できるものだと思う。特に海外支援では一定の役割を担ってきた。
ところが、だ。

今回の東北震災では、より「直接的な支援」こそが重要ではないかと感じた。だから、私はこのメールマガジンでも書いたとおり、メディア経由の募金や日本赤十字社経由の募金ではなく、NPO団体を経由して募金した。これには異論があるだろう。「日本赤十字社がもっとも信頼の置ける団体である以上は、そこを経由して募金して何が悪い」と。おっしゃるとおりだと思う。何も悪くない。ただし、私は日本赤十字社の決算情報を見るにつけ、そこを経由しない募金であっても一つの「答え」があるように感じたのだ。

私は、次の本の印税を、すべて被災地に募金することに決めた。これを偽善というなら甘受しよう。ただし、個人ができることからやらなければ、復旧はありえない。そのときに、どの団体を経由して募金するかを考えている。日本赤十字社経由ではなく、直接、募金を届けるのが良いのではないかと思っている。それは本に協力してくれた人と一緒に決めるつもりだ。

何度も繰り返す。募金そのものも、日本赤十字社を批判したいわけではない。

義援金から削られた額は、たしかに各種団体を成立させるためには必要なことだろう。ただ、一人の感情として、半分に削られることと、その義援金が半年後に届くことについて、無意見ではいられない。

日々増えていく犠牲者の数を前に、私はそんなことを考えている。

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