日の丸メーカーの行く末(坂口孝則)

日の丸メーカーの行く末(坂口孝則)

・どうした? 家電メーカー

日本メーカーがまったく儲からない。

2009年から2010年の2年間で、パナソニック、ソニー、シャープの大手家電3社は営業利益で8580億円を稼いだ。しかし、翌2011年ではおなじく営業利益で650億円の赤字となった。

2009年から2010年と意図的に2年分を合計してみせたのは、その当時、経済産業省の主導によって家電エコポイント制度が導入されたからだ。その予算は実に6930億円におよぶ。ソニーはその2年間で金融セグメントにおいて2813億円を稼いでいた。それを差し引いた3社の営業利益合計が、家電エコポイント予算とほぼ合致するのはたまたまとしても、その後の反動を考えず家電エコポイント制度の経済効果が5兆円だったと官僚たちが自画自賛していたのは覚えておいたほうがいい。

全国で使える商品券・プリペイドカードを発行することで、強引に消費行動を換気する政策のあと、薄型テレビの価格は劇的に低下した。かつて1インチ=1万円だった時代から、いまの実勢価格で2500円となり、1000円を切るものまで登場した。

生産改善や合理化、そしてコスト削減を進めていたとしても、販売価格が十分の一になってしまえば利益がでるはずはない。いくら節約しても月収30万円のサラリーマンが3万円で暮らせるはずはないのだから。

ところで、日の丸製造業の没落が語られるなか、三つの観点から、儲けの道を模索してみたい。

第一に、日の丸、日系、という言葉に注目したい。日系企業がインドの法人を買収したとしても何も思わないくせに、外資系企業が日系企業の買収しようとすると「ハゲタカ」「守銭奴」と日本人は揶揄してきた。

しかし、純日系企業と思われているパナソニックでさえ外国人持株比率は20%を超えており、約20%のシャープも台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が10%の株を取得すると発表した。ソニーはすでに40%近くある。また、快進撃が喧伝されるサムスンだってテレビ事業は儲かっていない。だから、日の丸、日系とはイメージにすぎず、単に旧来商品の敗北と思ったほうがいい。

第二に、それでも日本人技術者が働いていれば日系だと考える向きもあるだろう。日本人は金儲け第一主義ではなく、もっと技術に目をむけ、技術立国として優れた商品を開発すべきだとする声をよく聞く。

しかし、たしかに昨今の景気低迷で予算が減少しているとはいえ、GDPにたいする研究費は3.62%と先進国のなかでもきわめて高い。日本人は金儲け第一主義ではなく、むしろ技術研究に傾倒してきたとすらいえる。もっと金儲け第一主義になって、儲けるビジネスモデルを模索すべきではないか、と皮肉すらうかぶ。これまた単に「日本」メーカーの商品に付加価値がなくなっただけなのだ。

第三に、ではなぜ付加価値の高い商品を開発することができないのだろうか。付加価値の高い商品を作れ、と叫ぶひとたちに、ではその付加価値をうむためにはどうすればいいかと質問してもまともな回答がない。

・で、結局わたしたちは何をすべきなのか

この第三の点について、テレビを例にとって見てみよう。総務省の調べでは、10代と20代のテレビ平均視聴時間が大幅に下がった。2005年にそれぞれ、一日106分、104分だったものが、2010年には70分、76分と3割も低下した。その代わり、50代と60代では、2005年にそれぞれ110分、157分だったものが、2010年には119分、161分と上昇している。

つまり、テレビはすでに年長者の道具なのである。その世代の何%が、CELLプロセッサ、WLED、IPSパネル、エコ機能といわれて、それぞれの意味を理解できるだろうか。各社は新機能開発に経営資源を投入したものの、それを受け止める消費者が差異を理解しなかった。「ようわからんけど、安けりゃいいわ」という消費者の率直な声は、価格下落を止めることがなかった。

では、たとえば稼いでいる企業は? アメリカのVIZIO社は、莫大な数の保有者がいる携帯端末を新たなテレビとしてとらえはじめた。携帯端末はテレビ「も」見られる道具ではない。スマートフォンは新たなテレビなのだ。スマートフォンはスマートテレビとなり、その垣根はきえてゆく。同社は据え置き型のテレビから移動型テレビへの舵を切った。

「日本」メーカー各社は、ビデオカメラ、デジタルカメラ、DVD、ブルーレイ、オーディオ、シアター、それぞれのプラットフォームとして据え置き型テレビを位置づけ、その呪縛にはまった。各社の「儲からないカラクリ」を「儲けのカラクリ」に転換することは、これまでの商品戦略すら転換することだ。

ところで、先日、某有名経済学者と話をした。これまで話したことを述べると、付加価値を高める基本戦略について、もう一つある、と教えてくれた。

--それはなんですか。
「規制をかけることですよ」。
--え、規制?
「付加価値っていうのは、要するに高く売ることでしょ。それなら、外国から入ってくる商品に規制をかける。保護貿易で自国産業を守ればいい」。
--マジですか。
「価格規制もやっちゃえば、付加価値は高まるね」。
--計画経済ですか。

商品戦略の転換か、計画経済か。日本が選ぶのはどっちだ。

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