この原稿を書いている時点での円の対ドル為替レートは、¥84.58円になります。円高ですね。この国の指導者の発言も「慎重に見守る」といった傍観者的なものから「断固たる処置」へと変わっています。報道では為替相場への政府としての介入を示唆した発言とされています。

円高が憂うべき事態として報道される。じつは、これがこの国の憂うべきバイヤーの実情を表現していることを御存知でしょうか。

今回は、読者の皆さんにも容易にアクセス可能な公表されているデータにもとづいて、お話ししてみます。

最初に、財務省から発表されている最新の貿易統計のデータを参照します。これによると、日本は引き続き輸出>輸入であることがわかります。これが、過去にバッシングされた貿易黒字ですね。一時期より貿易黒字の額は減っているものの、輸入が多いから円高は大変だ!と、言いたくなるデータです。

しかし、同じ貿易統計の中には、こんなデータもあります。これは、輸出入の決済に使用された為替の種類と輸入額に占める割合を示しています。先に提示した輸出入額の速報値が今年の7月のデータであるのに対し、次のデータは上半期のデータになります。

実際にデータを見て私も驚いたのですが、輸出時には日本円による決済が米ドルによるものに近づきつつあるんですね。これも過去の急激な円高による学習効果か、為替リスクを買手に負わせられるほどに、日本の製品に魅力・競争力がある証になります。そして、円価での価格決済を進めているのは、売り手です。

そして、先に提示した二つのデータを合わせて考えてみます。

円高という為替の問題なので、メリット・デメリット双方が発生しますね。コストが円価の輸出産業が、顧客との決済を米ドルで行なう場合、円高は一大事になります。しかし、日本という一国の経済で見たとき、先に提示した2つのデータから判断すると、ほんとうに円高とは憂うべきなのでしょうか。だって、輸入額の70%以上を米ドルで決済しているんです。この割合を7月の貿易統計のデータに当てはめれば、日本にとって円高は、デメリットよりもメリットが大きいと判断できないでしょうか。決済価格を為替レートの変動にリンクして決定するとしても、輸入ではデメリットは生まないはずですね。輸入額の70%以上の、米ドルでの決済を行なっているのは、多くの場合バイヤーであるはずです。

そんな中で、政治家に「断固とした処置」を決心させてしまう。それは、今回の円高によるメリットを得られていないと判断したことに他なりません。円高のメリットを受けるであろうバイヤーが、十分な働き=円高で確保できるメリットを確保していないと言われているのです。

でも、何かおかしいですね。米ドルでの輸入は、何もしなくても円価ベースではメリットが発生しているんです。このページ(為替のトレンドが一番見やすいと思います)を見れば明らかにどのグラフも円高トレンドを示しています。ということは、円高でのメリットをどこかで誰かが享受している。そしてメリットの適正な配分が行なわれていないことになります。

円高のメリットはどこへいってしまったのでしょうか。そして、実際に発生しているメリットへ目を向けずに、今回の円高によって新たなメリット獲得へ動く、こんな動きも有ります。

この円高によって、またぞろ海外調達の機運が高まっていると聞きます。私の友人が勤務する企業では「コストのドル化」と、営業部長が先頭に立って海外調達推進を唱えているそうです。しかし、私がこれまでにおこなった海外調達では、最短でも実際の購入までに9ヶ月必要でした。今、どこかに発生しているメリットには目を向けることなく、将来の確実に得られるかどうかわからないことへ着目するのが果たして正しいアクションなのでしょうか。

私は、この円高の時期であるからこそ、日本円で購入しているモノ・サービスの中に潜む外貨で発生しているコストに目を向ける必要があると考えています。実際の日々の購買活動の中で、今回の円高トレンドとは一見関係のない日本円での価格の中にメリットが存在しているはずなのです。ただ、このアクションは、とても大きな2つの力と対峙する覚悟が必要になります。

一つは、この円高でメリットを享受している企業です。例えば、そもそも日本にリソースのない輸入品の代表的なものは鉱物資源です。鉱物資源の買い付けているのは大企業ですね。原油や天然ガスを輸入しているのは電力会社だし、鉄鉱石を輸入するのは鉄鋼メーカーです。日本を代表する大企業の名前が思い出されますね。今、皆さんの胸中に思い浮かんだ会社とまともに対峙できるかどうか。電力やガスに至っては、日本では地域独占です。実際は、電力・ガス供給の自由化といった動きもありますが、やはり一定規模以上がないと実現は難しい。そして、そもそも近年の原油・ガス価格の高騰により、規模のメリットがより力を持つに至っています。この力と対峙することは尊いです、がちょっと現実的ではないかもしれません。

もう一つの力。それは、価格変動を回避しようとするバイヤーがそもそも持つ意識です。

円高や、材料価格の変動でメリットを享受する場合、変動の結果、デメリットとなる場合の対処を合わせ考える必要があります。今回の円高でいえば、将来的に起こりうるであろう円安の際の対処です。円高の際に強くメリットの分配を要求し、円安の際に黙りを決め込むのはフェアーではありませんね。従い、価格の変動が有る度に価格の調整をしなければならなくなります。これが偏に面倒くさい。今回のケースでいえば、円価で安定的に購入できているものに、あえて円高をネタとして持ち出す必要はないと考えるわけです。

しかし、です。バイヤーに課せられているのは「安定調達」であり、安定の一義はモノ・サービスの確保です。当然、価格は安定調達のキーファクターの一つです。しかし、価格の構成要素の一部が大きく変動している、ましてバイヤー企業側にとってメリットとなりうる可能性が大きい中で、これまでと同じ価格を継続させることがバイヤーの責務となりうるでしょうか。

ちょっと精神論的な方向へといってしまいました。これを、有るべき姿として精神論とするのでなく、実務の中に仕組として取り込む方法があります。日本円で購入しているモノ・サービスの、価格の明細を入手して、外貨でコストが発生している費目がないかどうか確認するのです。円貨の中の外貨を探すわけです。多くの営業マンは、直接外貨で発生しているコストには敏感でしょう。しかし、円貨に潜む外貨まで意識している営業マンはいないのではないでしょうか。ちなみに、私は過去二週間、円貨の中の外貨探しを実際サプライヤーの営業マンへ言い続けました(合計すると12社くらい)。結果は、これからですが、すべてのケースで内容確認を行なうことになっています。今から、結果が楽しみです。

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